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「イルくん、イルくんっ!んふふ、見てた?わたし、今度はちゃんとできたでしょー!ほら!」


二十階行きのチケットを自慢げに見せびらかすAに、イルミは曖昧に頷くことしかできなかった。
自分の言葉が原因で、何か目覚めさせてはいけない怪物を起こしたような気分だった。

二度めの対戦相手は、一度めと似たり寄ったりの体格をした男で、彼は先ほどのAの戦いぶりを見ていないらしく拍子抜けした顔をしていた。
加えて舌なめずりなどをしたから、嗜虐的な趣味でもあったのかも知れない。今となっては聞くこともできないだろうが。

奇しくも同じBリング。審判も同じで、今度はさほども時間を取らずに開始の合図を出した。
それが間違いだったのだ。

審判に強制的に止められるまでの一分四十二秒間、Aはイルミの言う通りにした。
最初に足。いきなりのことに崩れ落ちた男を慮ることなく、もう片方の足も。
苦悶の呻きと叫び、命乞いの一切を無視して、Aは的をずらし続けた。つまり、死にはしないが行動を制限させる部位への的確な攻撃が繰り返された。

男の格闘家復帰は不可能だろう。長いリハビリを経て歩けるようになるかすら危うい。それほどまでに情け容赦のない戦闘──否、拷問だった。


「イルくんの言ってたこと、やってみたよ。面倒くさいけど、ここではああいう風なのがいいんだね?でも、これ、他に活かせる?」

「……殺さずに情報を聞き出したりとかもあるし」

「あ!お父さんがよくやる“ごーもん”ってこれのことかぁ。ふうん、やられるのは嫌だけど、やるのは大したことないね」


シルバの目論見では、この闘技場でAは数多の闘士と拳を交え、家族以外の人間の価値を認識させるはずだった。
失敗、と断ずるにはまだ早いかも知れない。この階層レベルではAの方がレベルが高く、交える拳も何もないのだから。

しかしイルミの進言を糧に、Aはより一層他者との相互理解からは離れたところに行ってしまった気がした。

彼女の世界には三種類の人間がいる。家族か、殺すべき他人か、殺さなくてもいい他人。
受け付けの女性や審判とは普通に会話をしているあたり、殺さなくてもいい他人となら、透けて見える酷薄さや無関心ささえ見抜かれなければ、表向きのコミュニケーションには問題がない。

ただ一度「殺すべき」カテゴリに入ってしまった瞬間、彼女は人間味を失う。
ちり紙を踏みにじるのに感慨を覚えないとの同様に。



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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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