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格闘技歴と年齢が同じであることを訝しむ受付をどうにか説き伏せ、そこでシルバは去ってしまった。
残された二人は顔を見合わせ、一階フロアの観客席へと続く通路を進んだ。歓声と熱気が流れてくる。
「いい、姉さん。ここには一般人も多いんだから、あまり殺しはしちゃ駄目だよ」
「イルくんまで注意するー……」
イルミに言い含められ、ぷすう、と不満げに頰を膨らませる。
「分かってますよーだ」とひらひら手を振って観客席の最前列に座る少女には、早くも好奇の視線が向けられていた。
天空闘技場は野蛮人の聖地ともいわれている。そんな場所にこんな幼い女の子が来ること自体目立って仕方がないし、しかも闘士としてとなれば注目度は更に上がる。
それだけならまだしも、Aの倫理観のなさと子ども特有の独善さは、この場で非常に悪い影響を及ぼすことを、イルミは既に察していた。
仕事に関係のない殺しは極力しない。これは祖父ゼノの教えだ。
他人の命をゴミ程度にしか捉えていないAは、もしかすると視線を疎んで発生源を抹消しようとするかも知れない。それはシルバとの約束に反する。
姉を守るためにも、イルミは姉と観客の両方に気を配らねばならないのだ。たった五歳の少年には過ぎた荷物である。
『1842番、1958番の方、Bのリングまでどうぞ』
「えーと……わたしだ。行ってくるね、イルくん」
「あ、そっちに入り口が……あーあ」
手元の番号札とアナウンスを照らし合わせ、Aはわくわくを隠しきれていないままにぴょんと席から直接フィールドに降りてしまった。
悪目立ちは避けたいというのに。内心頭を抱えながら、動向が見やすいようにBリングの近くへと移動した。幸い観客席からも見やすい位置のリングで、耳をすませば何とか会話も聞こえる。
Aの相手をする1958番は、いかにも格闘技をやっていそうな坊主頭の男だ。
煽るのが好きな観客達でさえ、この異様なマッチングには閉口した。男の腰にやっと頭が届くかどうかの身長しかない少女の登場は、審判は愚か対戦相手の眉をも下げさせた。
「えっと……キミが1842番?」
「はい!ルールをお願いします!」
ご丁寧に挙手をしてきらきらの笑顔を見せるAを前に、審判は困惑しながらもルールを説明した。
男はすっかり戦意を喪失しているようである。観客の目も和んでしまい、Bリングだけ場違いな雰囲気が漂う。
ただ一人、イルミだけが、何があってもすぐに飛び出せるよう身構えていた。
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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時