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プロローグ ページ1

ゴミだらけの異質都市、流星街。
何を捨てても許される歪な街に、場違いな身なりの女が足を踏み入れた。

女の名はキキョウ。自身もこのゴミ溜めの出身でありながら、ひょんなことからゾルディック家に嫁いだ強かな女である。

現在の夫──つまりはゾルディック家当主たるシルバに見初められたはいいが、キキョウは苦悩していた。
子どもができないのである。

シルバや、その父ゼノからは子を期待されているが、努力虚しく未だキキョウの腹は膨らまない。
齢十六にして嫁入りしたものだから、環境の違いに戸惑って、体が母として子を宿せない状態にあるのかも知れない。

事情は誰も測り知らぬことであるが、折角いい家柄に入れたというのに望まれたことも達成できず、キキョウは疲れていた。
こんな汚いゴミ山にも望郷の念は抱けるもので、郷里の懐かしい空気を求め、キキョウは一人流星街を訪れたのだった。

ここで過ごしていた頃、拠点にしていた土地へと進む。
幼いキキョウがただ一人で作り上げた、流星街の中では立派といえる家は、一年放置していたにも関わらずきちんとそこに建っていた。

けれども何かがおかしい。昔、キキョウが暮らしていた頃と外装が変わっている。
キキョウが去った後、何者かがこの家を見つけて棲み家にしたのだろうか。流星街ではよくあることだから、何の気なしに中を覗き込んだ。

女が一人、死んでいた。仰向けになった態勢で、カビの生えた床に寝転がって息絶えている。
流星街では、これくらいも日常茶飯事であるから、キキョウは特に驚くこともなくかつての家をぐるりと見渡した。


「……あら?」


するともう一つ、明らかにキキョウの知らぬ存在があった。
赤子である。冷たくなった女の股の間で、羊水に濡れて転がっている。死んでいるのだろうか。興味本位で赤子に触れると、何とまだ温かい。

流星街で生きた赤ん坊を見るのは初めてだ。恐る恐るキキョウがその小さな体を抱き上げると、赤子はむずかるように身をよじり、か細いながらに泣き出したではないか。


「まあ、まあ……」


先も述べた通り、キキョウの腹に子は宿っていない。このまま孕めなければ、最悪石女と罵られ、殺されてしまうやも分からない。

同じ流星街に生まれた者ならば、最早家族も同然ではないだろうか。
持ち合わせたハンカチで赤子の体をくるみ、キキョウは急ぎ故郷を後にした。


──これが、ゾルディック家長女誕生の瞬間である。



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くらげ(プロフ) - リメさん» 初めまして、閲覧ありがとうございます。小説を書くのは初めてなので、そう言って頂けて嬉しいです。頑張ります! (2018年9月19日 21時) (レス) id: 0096635b43 (このIDを非表示/違反報告)
リメ(プロフ) - 初めまして!とっっても面白いです!!くらげさんの文の書き方がどストライクすぎてすいすい読んでしまいました( *˙˙*) 更新頑張って下さい! (2018年9月19日 21時) (レス) id: d23165a5ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くらげ | 作成日時:2018年9月2日 4時

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