26 ページ28
堪える訳でもなく暫く笑った後、滲んだ涙を指先で拭い、改めてグルッペンを見た。
彼は豆鉄砲を食らった鳩のように赤い双眸を見開き、此方を見ている。
『何ですか？』
「いや…初めて、俺に向かって笑ったなと思ってな」
あぁ…そうだったかもしれない。
女子の目ばかり気にして、わざと彼との会話を早く切り上げたり、また敵対視もしていた。
笑いかけた、ただそれだけのことで喜ばれるとは…と、何だか申し訳なくなる。そうさせてしまったのは私なのだ。
「月並みなことしか言えないが、お前は笑っていた方が可愛いゾ」
なんて、恥ずかしげもなく言う彼には何とも答えようがなく。私は思わず目を反らした。
『…さいですか。
じゃあ私、準備するので』
「あぁ、ここで待っている」
ベッドの前に設置された小さなテーブルの前に座る彼を見下ろして、私はﾆﾔﾘと笑う。
『ゾムさんは朝ごはん作ってくれたんに、貴方はただ待つだけですか？あーあ…これならゾムさん来てくれた方が良かったなぁ』
途端にムッとした表情を浮かべる彼。
「おい、何だその言い方は。俺よりゾムの方がいいのか」
『まぁこんな早朝に来るんなら、少しは役に立つ人の方が嬉しいですよ』
「…待っていろ、ゾムが作る飯よりも何倍も旨いやつを作ってやる」
扱いやす。
『…じゃ、朝ごはんは頼みましたよ。
グルッペン』
「！あぁ」
名前を呼ばれ余計に嬉しそうな顔をする男。
…歳上の威厳など欠片も見えない。
まぁ、これで朝ごはんの手間は省けた。
方向転換した瞬間、
聞き慣れた電子音がキッチンに響いて。
嫌な予感がして振り向けば、グルッペンが卵を電子レンジに突っ込んでいた。
まさかの割ってもいない状態で。
ｺﾞﾛﾝと中で転がった卵に、そのままレンジの蓋を閉め「温めスタート」へと伸びる男の指。
__________何考えてんだ。
『な、何してｯ！？！？』
突然の不可解な状況に言葉がついていかず、咄嗟に彼の手を掴んだ。
「む、どうした」
『こっちの台詞です！？爆発しますよ何考えてんですか！！』
「そ、うなのか…？」
この人…
『料理、したことないんですか』
「…ない」
『じゃあ何であんなに意気込んだんですか』
「……ゾムに負けたのが悔しかったからだ」
『因みに何作ろうとしたんですか』
「目玉焼き」
アホか。
『…分かりました。貴方は座って待っていて下さい。キッチンには絶対入らないように』
「す、すまない…」
駄目だ、この人に料理を任せてはいけない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4025人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りっか - 好きぃ、、、めっちゃおもろかったです！語彙力が足りないので簡潔に伝えました（）これからも更新頑張ってください！ (4月8日 15時) (
レス) @page44 id: eb4b431a4e (このIDを非表示/違反報告)
夕凪死苑 - d!様の学パロで1.2を争うくらいには好きです、あと絵柄がすごい好きなんですけど！！絵上手すぎません!? (1月24日 14時) (レス) @page44 id: 2d1a360a6f (このIDを非表示/違反報告)
樹乃(プロフ) - おお"ん…好き (10月7日 19時) (レス) @page43 id: df66a330f6 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - はあ！かみだ！ (10月2日 2時) (レス) @page43 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
なりちゃく(プロフ) - こんばんは。出ている話は全て読まさせて頂きました。とても面白かったです！それと注意と言ったら上から目線ですが言いたい事があります。折角良い作品なのに設定タグが公式のを使ってしまってます…伏字に変えてほしいです。タグだけ気をつけてください…😭 (9月7日 21時) (レス) @page43 id: a38d8c3d1f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ラット
| 作成日時：2019年7月30日 17時
