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貴方side
『はぁ………』
小さくついた溜息はシャワーの音にかき消される。
さっきまでは翔太くんといて、楽しい時間を過ごしていたのに今は蓮の家にいる。その理由がストーカー…
一言では言い表せないぐちゃぐちゃな感情。
なんかもう嫌になる。
シャワーからあがると置いてある蓮の服。
それしか着るものがないので着ると蓮の匂いに包まれる。この柔軟剤の匂い…昔と変わっていない。
なんて、昔の事を思い出してしまう。
数年も前のことなのにこんなに覚えているなんて…
どれだけあの頃の生活が充実していたのか、そして私にとって大事なものだったのかを思い知らされる。
未練なんて…ないけれど。それはきっと蓮もそうだろう。私達はもう今では他人。いつまでも後ろを振り返ってなんかいられない。
脱衣所を出て、記憶を辿って部屋に戻るとテレビを見ている蓮の後ろ姿。
昔を思い出して胸が少しだけ痛む。
それを押し殺して足を進めた。
「髪…俺乾かそっか、」
突然そう言った蓮。
流石にそれは、と思ったけれど断れそうにも無く。
乾かしてもらうことにした。
蓮はソファー、私は床に座る。
これが懐かしいからのか何なのか分からないけれど、少しドキッとしてしまった。
乾かしてもらっていると急にさっきの事が頭の中に出てきた。
少し暗い道で着いてくる足音。震える体。
その感覚が今でも鮮明に残っている。
ついてきたやつが今でもこの世界のどこかにいると思ったら気持ちが悪くてしょうがない。
「…A？」
ドライヤーを止める蓮。
『れ、ん、…』
「辛かったよな…。」
蓮は私がさっきの出来事を考えていたと分かったのだろう。
「無理しないで、泣きたいときは泣いて良いんだから。」
その言葉がスイッチだったかのようにボロボロと溢れ出る涙。
蓮には背中を向けているから顔は見られていない。
「背中、擦るよ？」
そう言って私の背中を擦ってくれる蓮。
大きい手で温かくて…とても安心感があった。
そのままの状態で数分後。
涙が少し治まり、蓮の方を向く。顔を隠して。
泣いた直後だからそれはそれは酷い顔になっていると思うから。
『……ありがとう、。ごめんね、本当に。』
「良いから。謝んないで。」
……優しすぎる。
『うん、ありがとう。』
「それで良い。」
そう言って微笑む蓮。
少し見惚れてしまった。
数秒、お互い無言で向かい合う。
それでも居心地が悪くないのはなぜだろう。
「………あのさ、俺……」
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作者名：Mearu | 作成日時：2021年9月12日 21時
