今日も壁越しで (ページ32)

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「どこを探してもいなくて、母親と父親に裏切られた時、俺はどん底にいたし、諦めようとも思った、でもAのこと忘れられなかった。」

「もっとビックになって、大切な人を守れるようになったら、迎えに行こうと思ってた。そしたらたまたま引っ越した部屋が隣で、壁越しで喋る度に、Aがそこにいるのに会えない、抱きしめられないのがもどかしくて仕方がなかった」

「俺、本気で好きなんだ、Aのこと、付き合ってください」

『蓮くん……お願いします』

涙でぐしゃぐしゃになった顔を大きな手で包み込んでくれる。

それは昔、泣き虫だった私によくやってくれた事だった。

蓮くんがあの時引越して来なければ、壁越しで喋らなければ、再会することはなかったのかもしれない。

もう私たちの間に壁はない。

壁越しに話した内容も、壁越しに伝えようとしたお互いの思いも、壁越しに相手のことを思ったことも全部全部思い出として取っておこう。

今日から"壁越しの君"じゃなくて"大切で自慢の彼氏"になった。

「A？だいすき」

蓮くんは壁越しじゃなくて直接目を見て言ってくれるようになりました。

fin