3 ページ11
『ヒョンが全然抱いてくれないんですって言ってたよ』
『…それだけが愛の形じゃないと分かっているけれど、やっぱり、ちゃんとした形で愛されたいって』
ジウンイヒョンから告げられたマシューの本心を聞いて思わず頭を抱えてしまった。
マシューとは、一度だけ体を重ねたことがある。
互いに初めて同士で、ぎこちなくて不器用なものだったけど、とても幸せだったことを覚えている。火照って汗ばんだ体、はんびにひょん、と俺の名前を熱っぽく呼ぶ声、蕩けた表情で見上げてくる視線……。思い出しただけでくらくらしてしまうほど魅力的で、忘れられない一夜になった。
それから何度かそういった雰囲気になったことはあるのだが、その度に俺は何かしら理由をつけて逃げていた。
正直に言うと、俺もマシューに触れたくて堪らなかった。しかし、同時に怖かったのだ。一度知ってしまった快楽に溺れて歯止めが効かなくなったらどうしよう。マシューを傷つけることになってしまうかもしれない。そう考えると恐ろしくて手が出せなかった。それに男性同士の行為はどうしても受け入れる側の負担が大きくなってしまう。もしそれで、マシューが苦しむことになったら？そう思うと踏み出すことができなかった。
「……参ったなぁ…」
ジウンイヒョンから聞いた言葉が頭の中を巡っていく。マシューがそんな風に思っていただなんて全く知らなかった。どうして気付いてあげられなかったのか。恋人失格じゃないか。どうすれば良い？何が正解なんだ。ぐるぐると考えているうちに頭がパンクしてしまいそうになって、はぁ、と深い溜息が漏れる。
(……次のオフ、いつだったかな)
ふとカレンダーに目をやる。明日は雑誌の撮影で、明後日はラジオ収録。運良く、その次の日が丸一日オフの日になっている。よし、決めた。
「……明後日の夜、ちゃんと話そう」
そう呟いた言葉は誰に聞かれることなく消えていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 67人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ann | 作成日時：2023年5月31日 22時
