胸きゅん、しよう

胸きゅん、しよう ページ1

.





『ねぇ、風磨』


「…なに」



彼の名前は菊池風磨。


私とは、大学１年生の時に出会って、２年の時に付き合い始めて、えーっと、付き合って約３年。


風磨は私が呼んだって、雑誌に目を通したままこっちを向いてくれない。



付き合った当初は、目を合わせて会話をしていたのに、それを感じさせない、かなりそっけない態度だ。




無論、私も彼に対して同じ態度を取るのだから、文句は言えないのだけれど。




『私たち、付き合ってずっと経つじゃん？』


「…おう？」



別に、風磨のことを嫌いになったわけではないし、別れようとも思わない。


それは、向こうも一緒だと思う。


家事は分担するから、同棲しているのも苦じゃないし、困ってもいない。



ただ…。




『もう、なんにもないよね』


「そうだな」




そう、なんにもないのだ。


苦しいほどに焦がれる思いとか、穏やかで優しい気持ちとか。

甘い恋も、美しい愛も。


全部、ぜんぶ消えてしまった。




それが？と返事をする風磨に、私は続けた。




『だから私たちさぁ…』



そこまで言うと風磨は雑誌から目を離し、私の顔をちらりと見た。




『胸きゅん、しよう』



「…はぁ？」




これは、マンネリ化した、とある恋人の話______。

胸きゅん、しよう 2→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す