9ページ目 終わりへの時間 ページ10
それから約3か月間、俺は勇利と一緒にいた。たまに家の仕事を手伝いながら、勇利のトレーニングを見たり、自分の仕事をしたり。
「それでね――」
そして、ストレッチをしているときや休憩中、寝る前の座談会には、勇利が語る友人の話を聞いていた。
ピチット・チュラノンはデトロイト時代のリンクメイトで、タイ出身。表現力と独創性に優れている。SNSが好きで、よく写真をアップしているらしい。
オタベックはカザフスタンのスケーター。彼らしいスケートを得意とし、ジャンプに安定性がある。無表情なのにノリがいい青年。
クリストフはスイス出身のエロス担当。勇利とはジュニアからの付き合いで、よくヴィクトルの話をすると気が合うらしい。髭なのに童顔。
ギオルギーは感情移入が激しいロシアの選手で、よく失恋する。声真似が得意らしく、一人二役の恋物語を騙らせれば右に出るものはいない。
他にもデトロイト時代の友人やチェレスティーノコーチ、ロシアのヤコフコーチ、他の選手についての話をよく聞いた。
そして、そんな話の中でも最もよく出てきた名前が二つ。『ユリオ』と『ヴィクトル』だ。
最初にユリオと言われて真利が好きなバンドの人かと思ったがそうではないらしく、ロシアの選手らしい。性格はきついが祖父思いの良い子なのだと勇利は語った。
そして勇利の憧れの人物、ヴィクトル・ニキフォロフ。勇利の話の約7割りがこの話題で占められている。4回転フリップを代名詞として持つ、北の大国ロシアの氷上の皇帝。普段はフレンドリーだが毒舌で、怒ると怖い。
「だけど引退するって話したら、泣かれちゃった。凄いんだよ、涙まで美しいんだ。ヴィクトルが瞬きするたびに涙がパッて舞うんだ！」
勇利は顔を赤くして興奮しながら、俺にそう訴えた。
そして最後には必ず「そんな彼らと一緒にいたのは、今でも夢だったんじゃないかって思う。信じられないような話だけど、でも事実なんだよ！」と笑うのだ。
その度に俺は何も言わずに、否、何も言えずに、ただただ勇利の頭を撫でていた。もしかしたらその夢をもっと見せてあげられたのかもしれないのに。
そんな後悔を見せないように、勇利の体に腕を回して抱きしめた。
(俺が勇利の寿命を取って代わって上げられれば良かったのに)
腕に力を入れると、勇利から俺の背中に腕が回った。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (
レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか？ (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです！これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします！ (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます！引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました！そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです！更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします！頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西 | 作成日時：2017年11月25日 3時
