32ページ目 勇利のおかげ ページ33
ヴィクトルのフリーは、見ている者にその感情をぶつけるようなものだった。絶望という言葉がぴったり合うスケートで、ヴィクトルの苦悩を追体験しているような錯覚さえ覚えた。
技術点は言わずもがな、演技構成点がずば抜けて高く、そのまま勇利が更新したフリー歴代最高221.58点という記録を塗り替えてみせた。
そして彼は今、リンクの中央に設立された表彰台の上、その真ん中に堂々と立っている。金色に輝く、世界一を意味するそのメダルを首に下げ、カメラに向かって笑顔を向けている。
(良かったな、勇利)
ネットで絶不調と騒がれていた頃は一体どうなることかと思ったが、ここまでハイレベルな演技をして見せたヴィクトルに、なおも批判できる人間がいるのなら見てみたいくらいだ。
(勇利も、ヴィクトルらしからぬヴィクトルなんて見たくないだろうし)
だがスケートのことでヴィクトルが心配なら、俺でなくとも、俺を通じてユリオ(許可は取っていないが区別のためにユリオと呼んでいる)たちに頼むことだってできたはずなのに…どうして勇利は俺に頼んだのだろうか。
「A」
「…ヤコフコーチ」
この一日で何度も聞いたその声に、当たり前のようにその人の名前を呼ぶ。俺の名前を呼んだその老人は、被っていた黒い帽子を脱いで俺にお辞儀をした。
「あのままのヴィーチャだったら、あそこまでのスケートはできなかっただろう。感謝する」
スパシーバ、と低い声が言う。
「顔を上げてください。俺は頭を下げられるようなことは何もしていません。全部、勇利のおかげですよ」
ヤコフコーチは生粋のロシア人で、基本的にロシアの人々はプライドが高い。そして純粋で実直だ。だからこそ、彼が頭を下げて感謝したことは、それだけで意味が重いものなのだ。
それは、俺に向けられるべきものではない。
「そうか…。ならユウリ・カツキにも感謝だな」
「俺は何もしていない」
ヤコフコーチはそれを肯定しなかった。ゆっくりと、言い聞かせるように首を振る。
「どんなに高度で精密なプログラムを組んだスケーティングでも、それを滑る者がそれ相応でなくては、観衆の心を動かすことはできない」
ポン、と俺の肩に軽く手を置いたヤコフコーチは、その口角を上げて俺を見た。
「ユウリ・カツキのおかげだとしても、それを実行したお前の力もある筈だ」
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (
レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか？ (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです！これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします！ (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます！引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました！そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです！更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします！頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西 | 作成日時：2017年11月25日 3時
