2ページ目 夢であれ ページ3
結局、俺は半ば放心状態のまま、ヤコフに引きずられて空港までやってきた。マスコミの行動は早く、既に空港にはカメラを構えて待っていた。
「――ヴィクトル選手、教え子が亡くなったことについて一言――」
「――ヴィクトル選手！今の心境を――」
そんな言葉が周囲を飛び交う。ヤコフやガードマンたちが追い払ってくれてはいるが、言葉までは防げない。
耳を塞いで、うずくまってしまいたかった。なにもみなくて済むように目を瞑って、力の限り叫びたかった。だけど、俺の中の俺が、それを許さない。
「う…」
後方から小さなくぐもった声が聞こえる。ちらりと振り向いてみると、ユリオが被ったフードの端を握って立ち尽くしていた。
(…そうだ。悲しいのは俺だけじゃない。ユリオはまだ若いんだ。俺が、しっかりしないと！)
そう思えば、幾らか視界がはっきりした。生きる意味を、今だけユリオに移して。
記者が囲みだしたユリオを、その輪から引っ張り出す。掴んだ腕は細かく震えていて、顔色もかなり悪い。
「悪いけど、今は答えられないかな」
マスコミにはそれだけ伝えて、ユリオの肩を抱きしめながら先を急いだ。俺にもユリオにも、顔に笑顔なんてない。昨日泣きはらした目を隠すためのサングラスが、今の俺を守る唯一の味方だった。
「…ユリオ」
飛行機に乗り込んで、窓側の席に座らせたユリオを覗き見る。両手で顔を覆いながら嗚咽を漏らすユリオは、それでも一人で耐えようとしていた。
(…叫んでしまいたい)
何も考えずに、感情のままに叫ぶことができたらどんなにいいか。それを許さないのは、きっと俺の最後の自尊心。今は、未だその時じゃない。
「…着いたら起こしてあげるよ」
ユリオの目の下には、きっと自分がそうであるように、隈があるのだろう。眠れない夜の間、ずっと自問自答を繰り返していたはずだ。
――勇利は本当に死んだのか。
もしかしたら遅めのエイプリルフールかも。もしかしたら大それたドッキリかも。もしかしたら夢の中なのかも。もしかしたら、もしかしたら…。
眠ってしまったユリオの頬に残る涙の跡をなぞりながら、俺もゆっくりと目を閉じた。
嘘じゃない、夢じゃない。そんなことは痛いほど、苦しいほど、分かっている。だけどそれでも願わずにはいられないのだ。
どうか、どうか…夢であれ、と。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (
レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか？ (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです！これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします！ (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます！引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました！そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです！更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします！頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西 | 作成日時：2017年11月25日 3時
