10ページ目 涙 ページ11
ある日、勇利は泣き出した。特に原因も理由もなく、ただただ静かに涙を流し続けた。
――ティアドロップ・シンドロームの症状だ。その症候群がティアドロップと名前を享けた理由でもある。
症候群の症状として、露命症候群患者が今回のように涙を流し続けた場合は、泣き始めて半日から１日でその命は終わる、と言うのが今までのデータを分析した結果だ。
「兄ちゃん。僕、リンクに立ちたい」
「…ああ。行こう」
涙を流したことを確認してすぐ、勇利は俺のところに来た。きっと他の誰にも心配をかけたくなくて、最後に選んだのが俺だったんだろう。
「ありがとう」
ふにゃ、と笑った勇利の頬を伝る涙を手に取ったタオルで拭いてやる。生まれてこのかた、デトロイト時代や海外に行っている時以外は温泉に入り続けてきた勇利の肌は、目からこぼれる涙を吸うことなく、玉のように滑り落とす。
勇利を車に乗せ、アイスキャッスルを訪れる。休館日の今日、電話を入れて出てきてもらった優子ちゃんは、勇利の涙を見た瞬間泣き崩れそうになった。
「っ…勇利、くん…」
「優ちゃん。ごめんね、休館日に。どうしても滑りたくて」
涙を流す優子ちゃんに、勇利は何でもないように、いつもの練習したくて我儘を言うように、眉を下げた。
「…全く、勇利のハードワークっぷりは見習えるよなあ。なあ、優子ちゃん？」
それでも、すぐ真横にいる俺には分かっていた。勇利の手が、カタカタと小さく震えている。振る舞いは、恐怖を押し隠したものだったのだと。
だからこそ、勇利の努力は無駄にできない。数時間後には死ぬという恐怖、なんて想像も絶する中で、勇利はリンクに立とうとしている。それを支えないで、なにが兄だ。
「…そうだねっ！鍵はいつものとこに置いといてねー！前みたいに持って帰っちゃだめだからね！」
「何やってるんだ勇利…」
「わああ！ごめんってばー！」
状況を察し、不格好に笑って見せた優子ちゃんと軽口を叩き合い、鍵を受け取る。小走りに去っていった彼女は、きっとゆ〜とぴあかつきにいる、勝生家の家族を呼びに行ってくれたのだろう。
「ん、開いたぞ」
「うん、ありがとう」
建物の中に入った勇利は、慣れた手つきでスケート靴を履くと、リンクの中心へ滑って行った。すい、すい、とリンクを縦横無尽に滑った後、勇利は俺を呼んだ。
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あお - 29ページ目の最後で“ユウリの言葉を伝えてくれたあの人の名前を知らない”とありますが、勝生兄がヴィクトルの肩を掴んだ時、主人公の名前呼んでました。知らないなら呼べないと思います。 (10月29日 0時) (
レス) @page30 id: e2c1a012e2 (このIDを非表示/違反報告)
インスピレーション☆ - 面白いし泣けます!更新してくれますか？ (2021年1月11日 3時) (レス) id: 53958d3eba (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - ヴィーチャさん» 続きを読みたいと思っていただけて嬉しいです！これからも頑張りますので、お付き合いのほどをよろしくお願いします！ (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
西(プロフ) - mさん» お褒めの言葉ありがとうございます！引っ越しが終わりましたので、ぼちぼち更新していくと思います。 (2018年4月5日 0時) (レス) id: c128289cdd (このIDを非表示/違反報告)
ヴィーチャ(プロフ) - この作品を読んで泣きました！そしてこんなに続きが読みたいと思った作品は初めてです！更新が大変なのは分かりますがどうか続きをお願いします！頑張ってください。待ってます。 (2018年4月4日 23時) (レス) id: a1720166ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西 | 作成日時：2017年11月25日 3時
