９８ 安堵の再会 ページ48
それからしばらくギィと昔話や近況を交換していたら、いきなりドアが音を立てて開いた。驚いてそちらを見やるが、私の視界にはドアの現状は見えなかった。ただ、背中に太い腕が二本回っていることは分かった。
(…ぇあ？)
混乱する脳を必死で動かした結果、私は一つの結論にたどり着いた。私は今、男に抱きしめられている。それから落ち着くためにゆっくりと息を吸うと、懐かしい香りが鼻孔をくすぐった。
(これは、魔力香？懐かしい…なんだっけ)
魔力香とは、魔力を使った時に同時に発生する匂いのことである。これは基本的に誰でも持っていて、しかし誰でも認識できるというわけではない。魔力の感知に先天的に優れた者でしか分からないのだ。
「タケル、生きて、良く生きていてくれた」
耳元で絞り出されるように告げられた言葉に、その声に、私は懐かしさを覚えた。同時に何も言わずに消えてしまったことに対する罪悪感もあったが、それは後で謝ろうと思う。
「…ヴェルドラ、苦しいよ」
「我はその何十倍も苦しかったのだぞ」
私の肩口に頭をうずめ、ぐりぐりと押し付けてくるヴェルドラは、元のサイズ以外を知らないからか、本当に新鮮に思えた。
「…ごめん…」
小さく謝りながら、先ほどの魔法香を思い出す。昔その匂いの植物を調べて、それが名前は違えどこの世界でも生殖しているのだと知った。
(確か名前は……スターチス。日本名は磯松で、花言葉は真の友情、尊敬、君ありて幸福…案外ヴェルドラにあってるかもって、みんなで話したっけ)
かすかにスターチスの香りをまとわせたヴェルドラは、いまだ私を離す気配がない。縋るように私を抱きすくめるヴェルドラの後ろで、誰かがため息をつくのが分かった。
「ヴェルドラ、その子が困ってるだろ」
「知らん」
「子供か」
「それで離れなくてよいなら子供でいい」
きっぱりと断言したヴェルドラは、少し私を捕まえていたが、やはりリムルの言葉が気になったのだろう、名残惜し気に腕を離した。
「…すまぬ、困らせたな。だが本当に心配したのだぞ」
眉を下げつつしかめっ面をするヴェルドラに笑いかけながら、ごめんね、ありがとう、と告げる。人間の姿をした竜は少し驚いた顔をしながらも、また苦しそうに、どこか嬉しそうに顔を歪めてから、離れていった。
ヴェルドラがリムルの傍に帰り、それを待ってから、次はリムルとベニマルが動いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：西 | 作成日時：2017年5月22日 21時
