【転スラ】世界の声の媒介者【放浪しよ】Ⅱ (ページ46)

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９６　刺さる殺意ページ46

隣に座っている人に声をかけられて、現実に戻った。寝てるのかと思ったよ、と笑いながら言う中年の男性は競技場に目を向けて、次は大物カードだよ、と意気揚々と言い放った。

「次？ええと…」

「なんだ、あんたやっぱ寝てたんじゃないのか？次はほら、ベニマル様だ！」

　おじさんが指さした先には、一振りの刀を携えたベニマルが競技場の中に堂々と立っていた。揺らめく髪の先、ベニマルの視線先には、巨体を揺らしながら中央に歩み寄る巨人がいた。

(ジャイアント…巨人族のダグリュールの息子、か)

「あれはダブラ様だな。予選はぶっちぎりで勝ってきたらしいよ。前回はソウエイ様に負けてたけど、今回は…まあ、未来は分からないしな！」

　目が本音を語っているが、笑いでごまかしているようなので放っておく。特に返事を返さずに再びベニマルの方を向くと、先ほどのおじさんが私の足に手を置いてきた。驚いて固まってしまうが、そんなときに限って、私はベニマルと目が合ってしまった。

　ベニマルは私を認識したとたん、ちゃんと見てろよ、と言わんばかりに笑みを浮かべた。私も笑みを返すが、恐らくぎこちないものになっただろう。それをベニマルが不審げに思ったのは分かったが、私は内心それどころではなかった。

(…気持ち悪い…いやだ…嫌だ…っ！！)

　目の前ではベニマルがダブラと剣を交えた。私の目はその光景を寸分逃さず記録するが、意識は右足に向いたままだ。

　選手の決着は一瞬でついた。ベニマルは、総大将の名にふさわしく全力でもって相手をした結果、瞬きする間にダブラの体を地に横たえさせた。歓声にこたえるベニマルがこちらを向いたとき、おじさんが、故意になのかはわからないが、私の肩を抱き寄せた。

「で？あんたいくらだ。そんな短いズボン履いてんだ、男誘ってんだろ？このアバズレが」

(殺すぞくそ爺)

　鳴りやまない歓声の中で、気味悪く笑って見せるこの男が、気持ち悪い。できることなら手を払いのけて、頬を全力で殴ってやりたい。まあやったら相手が死ぬからできないのだけれど。右足に添えられた手が内側に滑り、男の左手は私の肩をゆっくりとなでた。湧き上がるこれを私は知っている。これは…――

「おいおっさん、何してる」

　急にあたりが暗くなり、影が落とされたのだと気づいた時には、男の両の手は私の体から離れていた。肌に刺さるのは、先ほどまで私が抱えていたのと同じ、それ以上に凶悪な……殺意だ。