９５ 信頼できる仲 ページ45
「我はヴェルドラ・テンペスト！我のオクト焼きを食べに来るがいい！クワハハハハハ！」
オクト焼き…恐らくたこ焼きなのだろうが、なぜヴェルドラはたこ焼きを販売しているのか…。昔から好奇心だけは人百倍あったが、それの賜物なのだろうか？というか、これが挨拶でいいのか？
「私はミリムだ！」
「そしてラミリス！」
二人はプリキュマ！なんて言い出しそうな挨拶にはなぜかポーズまでついている。そしてファンたちの歓喜の歓声がうるさい。誰か真面目はいないのか。
「…レオン・クロムウェルだ。せいぜい頑張れ」
今度は女性客の歓声がやばい。そろそろ私の鼓膜がご臨終になるかもしれない。だがリムルを除けば今までで一番良い挨拶だ。この調子で…。そう期待した私は、次にマイクを握った人を見てその希望を捨てる。
「オレはギィ・クリムゾンだ」
あれ可笑しいな、歓声がない。と思って辺りを見回すと、なんということでしょう。
(えっなに見惚れてるの？泣いてる人までいますけどなんで？？)
何があったのか困惑するが、一番恐ろしいのはこれが魔法を使った人心操作じゃないことだ。元来のカリスマ性のおかげなのか…？
しかしにこにこと笑っているギィの口の端には生クリームが付いているので、恐らくケーキをたくさん食べてご満悦なのだろう。ちゃんと拭けよ魔王だろ、とか思っていたら、傍にいた女性――恐らくあれがヴェルザードなのだろう――が生クリームをタオルでふき取った。
(ああ、そういうことか…)
ヴェルザードはどこから見ても恋する乙女で、ギィもそんなヴェルザードを信頼しているようだ。きっと彼らは恋人なんだろうし、もしかすると夫婦なのかもしれない。ただ、幸せの真っただ中にいる彼らを、無意識にメトロポリスにかぶせている私がいて。
(…本当に嫌になるな。二千年も経って、まだ忘れられないなんて)
そのまま挨拶は終わり、試合が始まる。一般選抜の戦士たちが汗を流して戦っていく。周りの観客が盛り上がり、コロシアムは熱気と歓声に包まれる。誰もが笑顔で、誰もが今、生を楽しんでいた。
その中で、取り残された様に存在する私に、より嫌気がさした。空虚な心が寒くて、独りぼっちなのだと実感した。表面上で付き合い、ギィとヴェルザードのように心から信頼することはできない。
(さみしい、な…)
頭上では、私をあざ笑うかのように…蒼い空が広がっていた。
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作者名：西 | 作成日時：2017年5月22日 21時
