８１ 代替品 ページ31
「その気持ち、よく分かる。特に尊敬する人の前ではそんな姿は見せたくないよな。そこまで配慮が回っていなかったこと、謝罪しよう。すまなかった」
そう言いながらベニマルは私に向けて頭を下げる。一応高位な方なのだから、一般人の私に頭を下げると思っていなかったので、慌てて顔を上げるように訴える。
「ありがとうございます。でも、そんなに気にしないでください」
内心の戸惑いを隠しながら、それでもベニマルに笑顔を見せる。かの有名な総大将殿は、眉を潜ませながら「ああ、ありがとう」と言って姿勢を戻した。くっそイケメンかこの野郎。
「そこで提案なんだが」
「はい？」
この話は無しになり、私はこのままテンペストに入国するつもりでいたので、ベニマルに何かを申し出るように話しかけたとき、随分と間抜けな声が出てしまった。相手はそれをクスリと笑い、それからまた話を続けた。
「本選に出ないのであれば、代わりに観戦権を用意させようと思う。どうだ？技術の発見にもなるし、お前のスキル発達にも役に立つはずだ。あー、と…」
そう言いながら私のギルドカードを確認しようとしたので、それを提示しながら「タケルです」と自分の名前を答える。
「タケルか。良い名前だな」
これだからイケメンは。と内心で愚痴を言いながら、隠しきれない嬉しさに顔をうつむかせながら礼を言う。バシェラーにも褒められたこの名前が、また褒められることにどこかむずがゆさを覚えた。
「俺はベニマル。この国、テンペストの魔王であるリムル様の部下であり、軍の総大将を任されている。で、どうだ？」
自己紹介に無反応と言うわけにもいかないので頷きながら、しかしここで断るとせっかくの好意を無駄にしているように思えて申し訳ないので、それも了承する。まあヴェルドラに会いそうになったら、体調不良を理由にして退席すればいいだけの話だ。
「良かった。そうだ、冒険者なら一度ダンジョンに挑戦してみたらどうだ？まあ一人じゃあ難しいだろうが…」
「今度は仲間を作って来てみます」
「そうしてくれ」
まあ、仲間は作らないんだけどね。と心の中で呟きながら、ニコリ！と笑って去っていったベニマルを見送る。
そのあとは兵士からテンペストの印が押された観戦証明書とテンペストのパンフレットを受け取り、やっとのことで入国を果たした。
《前途多難ですね》
(いつの時代もね)
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作者名：西 | 作成日時：2017年5月22日 21時
