【転スラ】世界の声の媒介者【放浪しよ】Ⅱ (ページ14)

今日:21 hit、昨日:12 hit、合計:102,676 hit

６４　ヴェルドラの後悔ページ14

紅い空に浮かぶ黒い点は、自分がそこまでたどり着くまでに消えていった。竜の翼をもってしても、我の瞳をもってしても追いつけず、見えなかった人間は、後にも先にもあの少女ただ一人なのだと思う。

　先ほどまでタケルがいた場所についても魔力の残痕も感じなかった。竜種を上回る妨害結界を張ったのか、はたまた魔法を使わずに逃げたのか…。

「…我と同じ道を歩むでないぞ、タケルよ」

　眼前に広がる黒い荒野は、恐らくタケルがやったものなのであろう。そして役目を終えたタケルは、今はどこに行ったのか。

(媒介者は死ねない、そう言っていたな。生きる意味を失った今、タケルはどうするのだ)

　長い間、ジュラの森の守護者として君臨してきた故、その分孤独を味わった。それがどうだ、魔物を迫害する愚かしい人間の中に突如現れたあの少女は、人間を改心させ、我ら魔物の意識を変え、そして平和で楽しい時間を作り出して見せた。

　ただそれは彼女の幸せを含めていなかった、と言うのは、我もほかの仲間たちも感じていたところであろう。そしてバシェラーの恋心の自覚と周りのサポートにより、彼女もやっと幸せになれると思っていたのだ。

(我の恩人で、大切な友人だ。壊してくれるなよ)

　バシェラーにはそう伝えたが、結局…タケルはその暖かい心を失い、敵国を一人残らず滅ぼしてしまった。

(…もっと早く気付いていれば…我がおれば、メトロポリスはこんなことにならなかったであろうに)

　東の大平原に留まり、そのままセレモニーや結婚式に出る予定だったのだ。そのせいで伝達が遅れた。こんなもの言い訳にしかならない。何かほかの伝達方法を用意すればよかったのだ、と頭の中で理解している。だからこそ、心に渦巻くこの重い感情を、ヴェルドラは「後悔」と名付けた。

(二度と、こういうことはごめんなのである)

　タケルがもし世界を滅ぼそうとするのなら、その時は我がどんな手を使っても止めて見せる。もしもう一度幸せを掴めるのなら、彼女がそれを望むのなら、我は全力でそれを応援する。

(タケル。一人ではないのだぞ。テラーも我もついている。我はそなたの友人だからな！)

　もはやここに留まる意味はない。我の友人を殺した人間どもなど、タケルがやらなかったら我が絶対にやっていた。

「…また会える日を楽しみにしているぞ」

　ばさ、と大きな翼を広げたヴェルドラはその漆黒の体をジュラの森に向けて、そのまま彼方に消えていった。