〇18話〇 ページ19
「Aちゃん、辛かったね、ごめんね…僕が、僕がもっと早く来ていれば…そもそも僕がバイト抜けずにAちゃんと一緒にいれば…こんなことには…」
土下座に近いくらい深く頭を下げているカノ君に、慌てて頭を上げるように大丈夫と言った。
「大丈夫じゃないでしょ、Aちゃん、震えてたし今も涙零れてる。」
と、指で私の涙を掬ったカノ君の方が悲しそうに顔を歪めていた。
「…結果的に何も危害加えられていないし、だいじょ…!」
大丈夫と言い切る前に身体に伝わる温もりと、猫っ毛が頬を掠める。
そして、いつもより強く香る柔軟剤に、抱きしめられていると理解が追いつくのにそう時間はかからなかった。
「結果論じゃないよ、こればかりは…Aちゃんが怖い思いしたと思うと…守らなきゃなのに………ごめん、」
「カノ君が謝る必要ないよ。カノ君達のおかげでもう怖くないから。」
暫くカノ君は何も言わないで私を強く、だけど優しく抱きしめていて、私の鼓動は速くなるばかりだった。
「…もう19時だね。」
時計はもう19時と5分過ぎを指していた。
「急に抱きしめたりなんかしてごめんね。嫌だった?」
叱られる前の子供のような顔をして聞かれてふふっと笑ってしまった。
「ううん、カノ君の匂い好きだから、なんか安心しちゃった。」
「…!………そ、そう。」
素直な感想を言うと、カノ君は急にそっぽ向いた。
「Aちゃん、閉めは僕がやるから裏で休んで。」
「悪いよ、第一カノ君上がってるんだし、あとは私がやらないと…」
「ダメ、それにAちゃん、コーヒー飲んでないでしょ?冷めちゃってるよ。」
「あ、ごめん…なんか勿体なくて…」
「ふふっ、コーヒーなんていつでもあげるんだから、そんな取っとくものじゃないでしょ。」
「…そうだけど、」
バイト中、このコーヒー見る度カノ君の顔が浮かんで頑張ろうって思えたんだ。
そう言おうとする口がカノ君のクシャッとした笑顔を前に息を飲む口に変わってしまった。
カノ君のこの笑顔、本当に綺麗だ。
いつもニコニコしているカノ君は何だか胡散臭くてつい素っ気ない態度を取ってしまうけど、たまにこんな無邪気な笑顔を見る。
その笑顔を前に、私はどうも私を維持できない。
なんか、急に胸が熱くなる。
「じゃあお言葉に甘えて…あとは任せていい?
「いいよ、ゆっくり休んでて。」
「ありがとう…裏でコーヒー頂くね。」
「うん、どうぞ!」
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作者名:めみ | 作成日時:2015年3月1日 16時