39話 ページ39
残暑は去り、空気は乾いて透き通り、グラウンドに射す校舎の影の形も、木立の葉の色合いも真夏とは違っている初秋
どこか弛緩した雰囲気に包まれた空き教室を1年生と蔵野Aで席を陣取っており、何気にこの四人でいるのは初めてでもあった
蔵野Aは無言で本を読んでいた
読んでいる本は朽葉色に日焼けした骨董のような薄い本、その内容は面白いものではないらしく無表情で本をめくっている
そして1年生はああでもこうでもないと話し合っている
「この前喫茶店で飲んだコーヒーがすっごく甘かったのよ」
「入れすぎただけじゃないのか」
伏黒の言葉を否定するように釘崎は続ける
「絶対ありえないわ、角砂糖1個で舌がとろけそうになるなんてありえないでしょ?」
「甘すぎるコーヒーか」
「俺にはわかんねーや、蔵野先輩はどう思う?」
『あ、はい』
無表情で本を読んでいた蔵野Aが、驚くように顔を上げる
『……すみません、なんの話でしたっけ?』
結構な声のトーンで1年生は話していたが蔵野Aには全く聞こえていなかったらしい
いつも話をよく聞いてくれるはずの人が今日に限って話を全く聞いていないことに不思議と思い1年生は心配の目を向ける
「蔵野先輩、休んだほうがいいですよ」
『えっ?』
「目の下の隈酷いわよ」
「休んだほうがいいな」
伏黒に続き虎杖、釘崎までもが休んだほうがいいと言う
『そこまで言うなら今日はここで失礼しますね、話はまた今度ちゃんと聞くので』
蔵野Aは読んでいた本を閉じ立ち上がる
「蔵野先輩またな!」
「お大事に」
「じゃあね、Aさん」
蔵野Aがいなくなり静まり返る空き教室
「なんかあったんかな?」
「深入りしないほうがいいぞ」
「……そうだなー」
「…そうね」
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作者名:黒猫 | 作成日時:2020年10月29日 17時