彼氏様×彼女様 *短編集【名前変換オリジナル】

145cmの初恋 ページ14

身長145cmの私は

どうにもこうにも、満員電車では不利



手すりには届かない

人に埋もれる、押しつぶされる



電車において

いいことなんて、ない



でも、学校まで乗らなきゃいけないんだもの

・・・しょうがない




――それにしても、




「今日はちょっと多いなぁ・・・」




溜息が出る


外は土砂降りの雨

当然、乗客も増える


・・・イコール、私は酷い目に合う



それだけは、避けたい

どうか、無傷でいたいっ



いそいそと、ちぢこまって

電車のドアに寄り掛かる



・・・早く、駅についてほしい

そう思ったとき



たくさんの乗客が私のほうに

雪崩みたいに倒れてきた




「え、えっ！？」




まさかの、電車が急ブレーキ


レールがカーブしてるところだから、

遠心力で乗客が飛ばされる



やばい、今日こそ死ぬっっ

そう思ってぎゅっと目を瞑った




『大丈夫っ？』




そう、声をかけられて

恐る恐る目を開けると




「んっ、あ、え？」




目の前に端正な顔をした男の人

制服からして、私の隣の学校の人




『間に合ったか、良かった』




よくよく周りを窺うと、

この人が私の顔の横に両手をついて、雪崩から守ってくれてる




『女の子なのに、満員電車？』


「あの、えっとっ」




返答に困る

おろおろしてる私を見下ろして、男の人はくすくすと笑う




『ん、ほんとちっちゃいね、いくつ？』


「ひゃ、145です、けど」


『145っ？俺と30cm差か』


「え、175っ？・・・おっきい」


『おっきくなぁーい、普通なの』





いやいや、私からしたら

もう巨人サイズですよ


・・・じゃなくて




「あの、ありがとうございます」


『ん、いいよ別に』


「またお礼させてください、・・・えっと」


『新垣 秋っていうの、俺』


「・・・秋さん？」


『はい、そうです』




ニコッと笑う秋さん

この曇天の雨空が明るくなりそうなくらい眩しい笑顔



胸がきゅんとなる

・・・Ｂの分際でっ




『で？』


「？」


『名前』


「あ、Aです、七瀬 A」


『Aちゃんね、可愛い』


「・・・っ」




ほんとにやめてほしい

そういうの慣れてないんですけどっ




『あ、俺ここで降りるから』


「私もです」


『じゃ、一緒に行こっか？』


「はいっ」




ふと窓から外を見ると

すっかり空は晴れていて



隣にいる恩人さんと

胸にしまっておきたい気持ちとともに電車を降りた



145cmの初めての恋です

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