彼氏様×彼女様 *短編集【名前変換オリジナル】

花魁一夜物語 ページ12

「・・・ようこそ、おいでくんなまし」



私は微笑む


嘘ばっかりの、

毎度毎度、同じ言葉、同じ表情でお客を迎える




・・・やめたい、外に出たい


そう、何度思ったことか




大抵のお客は

「綺麗だ」「好きだ」などと薄い台詞を吐いては

私を思うが儘に、する




花魁なんて

そんなどろどろしたもの

一夜限りの恋愛物語を繰り返す




もっとも、こんなのを恋愛なんて呼ぶの？




『ねぇさま、秋さん』




小さな可愛い小間使いちゃんが、

襖から顔をひょこっと覗かせた




「通してくれる？」




秋、さん

その名前を聞いただけで、このどろどろな世界に光が差す

私の世界での、唯一の救い



部屋にひいてある布団なんかには目もくれずに

一夜中、外の世界の話をしてくれる


ちまたで流行している食べ物や言葉

時には美味しい和菓子や綺麗な簪などを持ってきてくれる




今夜も、来てくれた

嬉しくて、落ち着かなくて、そわそわしてしまう




『ごめんね、待った？』




襖からあの人の匂いがする

あったかくて優しい匂い




「全然、待ってないですよ？」


『そう？今日はね、美味しいって評判の団子』


「ほんとっ？」




団子団子団子っっ

私が2番目に好きなものっ


もちろん、1番目は

秋さんですけど？




「んーっ」


『美味しい？』


「delicious！」




私は秋さんのほうを向いて

得意げな顔をする



英国人と日本人のハーフの

さっきの小間使いに教えてもらったんだ




『英語・・・、分かるんだ？』


「ふふーん、教えてもらいました」


『そっか、じゃぁこれは？』




――Your lip also seems to be delicious.

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