奇跡

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「でもほんと、結婚するから辞めますって聞いたときは驚いたわ。」


コーヒーの入ったカップを差し出しながら、不意にそう南さんが呟く。


「だって、すごい楽しそうに仕事してたし。Aちゃんを指名する顧客さんだっていたのに・・。」


すごい・・。

私の１０年後って、そんなに楽しそうな世界なんだ。



A「なんて、もったいない・・。」


思わずそう呟けば、「え？」なんて聞き返されてしまう。


A「あ、いや・・。何でもないですっ。」



結婚しても、続ければいいのに・・。


何で辞めちゃったの？



「でも、それだけ手越くんの事が大事だってことなんだよね。」

A「・・？」


「仕事よりも何よりも、彼が一番大事なんだよね。」

A「はぁ・・。」


「もぉ〜、何その気のない返事は。Aちゃんが辞める時にそう言ってたんでしょ？」


南さんはそう言うと、クスッと笑った。


仕事を辞めた理由が・・。

手越くんの為・・？


いくら考えても、さっぱり理解できない。


「さっ、向こうに戻ろっか。ごめんなさいね。つい引き留めちゃって・・。」

A「いえ・・。」


そう言いながら、私は手越くんの元へと戻る。



祐「おかえり。何、話してたの？」


「それはね？女同士の秘密よね〜。」

A「そう・・秘密。」


まだ理解はできないけど・・２７歳の私がどれだけ手越くんの事を想っていたのか。

少しだけ知ることができたよ。


なんて、言えない。


でも、それだけの魅力が彼にはあるってことなんだよね？



祐「何だよ〜。ケチっ。」


「あっ、そういう事言うなら・・Aちゃん返してもらおうかなっ。」

祐「嫌っすよ。返しませんよっ。」



そんな２人のやり取りを見ているうちに、私からは自然と笑みが零れていた。

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