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静岡県立清水東高等学校
この校門を最後にくぐったのは大学生だった。
晴くんと一緒に訪れたことは一度もない。
一緒に行かないか、と何度も何度も聞く彼に
私はいつも黙って首を横に振ることしか出来なかった。
その時の彼の表情は寂しそうで
胸がチクリと痛んだけれど
どうしても、行けなかった。
「これ着といて」
篤人くんから手渡されたのはウインドブレーカー。
亮たちもちゃっかり初蹴りには参加するらしく、スパイクを履いてアップを始めている。
篤人くんの同級生たちと打ち解けたらしくふざけあっている。
篤人くんは試合には参加せず軽く蹴るだけにするらしい。
まぁ、膝のこともあるし、ね。
「ちゃんと着とけよ。風邪ひかないように」
そう言う篤人くんが、10年前のヒロにかぶって見えた。
あの人は、意外に心配性だった。
ここに来ると、嫌でも思い出す。
幸せな思い出だらけだったのに、今は思い出すのが辛い。
初めてここに連れてきてもらったのは、大学1年の夏。
試合をぼーっと眺める。
晴くんもこんなふうに参加していたんだろうか。
あの中に、彼らの姿がないか、と探しそうになる自分に気づいて呆れる。
もう、いないのに。
あの人も、晴くんも……。
「晴くんもいっつも初蹴りには顔出してたよ。」
「うん…知ってた。がんが再発する前までは必ず静岡に行ってたからね。清水東は自分のサッカーの原点だって言ってた」
大事なこと、忘れかけてたことを思い出させてくれる場所なんだって嬉しそうに話してくれたから。
「あー、晴くんの言ってることわかるわ。」
目を細めて、嬉しそうに笑う。
彼も同じようなこと思ってるんだな。
篤人くんの視線の先には、在校生なんだろうと思われるサッカー部員たち。
彼らにとっても、ここがそういう場所になってくれるんだろうか。
ぼんやりそんなことを考えた時だった。
楽しそうに試合をする彼らの中に……見知った顔がいたような気がした。
「え………？」
生徒に混じってボールを追いかけながらも、時々大きな声で指示を出す。
「どうして……？」
知ってる。
私は、知ってる。
なぜ、君がここにいるの……？
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作者名：めぐ | 作成日時：2015年7月1日 23時
