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『サッカーやろうよ……いや、サッカーやろうぜ』
稲森君に言われた言葉が離れない。
『サッカーは誰かを負かすためにやるんじゃない。想いを繋げるためにやるんだ！』
想いを繋げるため……
『そうやっていく内に胸が熱くなる……それがサッカーだ！ 俺達が大好きなサッカーだ！！』
『だから、ゆうまにも感じてほしい。楽しいって気持ちを。嬉しいって気持ちを』
「！」
前にAが僕に向けて掛けてくれた言葉が頭をよぎった。
……そういえば、前に雷門のマネージャーからこんなこと言われたっけ。
『あの時、貴方は苦しそうだった。貴方の心は叫んでいた。偽りの自分でいなきゃいけないことに押しつぶされそうになっていた』
『私には分かる！ 貴方は稲森君たちと同じサッカーが大好きな人なんだって！』
出会って間もないと言うのに、一度助けて貰っただけだというのに僕の何が分かると言うんだ。初めはそう思っていた。
けれど、今思えばあの時すぐに浮かんだその言葉は、もしかしたら言い訳だったのかもしれない。
彼女の言う通り、自分に嘘を着いていたのかもしれない。それに気づくことができたのは、何も疑うことを知らず、全てに従順なあの子がいたからだ。
偽りで居続ける嘘つきな僕と、何も分からないから従う事が正しいと信じるA。ある意味対照的なんだろうね、僕達。
「……失礼します」
「来たか、野坂」
僕が入室した部屋にはオーナーとその秘書がいた。ベンチに姿がなかったから、ここにいると思っていたんだけど……入れ違いか、そもそも違う場所に呼び出されたかのどちらかだろう。
僕はオーナーの前まで足を進めた。向こうは僕が目の前に来たことを確認すると、口を開いた。
「残り時間は少ない。手段を選ぶな」
「……お言葉ですが、僕らはとっくに手段など選んでなどいません」
「馬鹿な。お前らはアレスクラスターの中でも特別な存在なのだ。あのような凡庸な者…」
「まだ分からないのですか！」
この試合を見てまだ分かっていないオーナー……いや、もうこう呼ぶのも面倒になってきた。
目の前の男の目は節穴なのか？
それとも、アレスの天秤に酔っているのか？
「彼らは強い。簡単に倒せる相手じゃない！」
「忘れたのか、野坂。この戦いに勝たなければお前達は自由にはなれないのだぞ？」
「……そんな取引、今はもう意味がありません」
もう嘘を付くことは止める。
正直に言おう……僕の気持ちを含めたみんなの気持ちを！
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
