338 ページ49
・
「……あ」
裏口から出ると、なんとそこに野坂君がいた。
いると思わなかったため、思わず声が漏れてしまった。
俺のその声に気づいたのか、野坂君はこちらを振り返った。
「やっぱりここに来ると思ってました」
「……流石に正面から出られないからね」
「これからどこへ行くんです？」
「さっき迎えを頼んだんだ。会社の裏まで来てくれるみたい」
「なるほど」
そう言った野坂君は中々ここから去る素振りを見せない。どうやら一緒に待ってくれるらしい。
重いわけじゃないんだけど、流石に抱え続けるのは骨が折れる。どこか座れる場所がないかと辺りを見回していると、良さそうな場所を発見。
俺がそこへ移動すると野坂君も着いてきた。
とりあえず頭だけでも固くないようにと、自分の膝にAの頭を乗せる。
自分の隣に空いたスペースへ野坂君に座るように促せば、彼は「失礼します」と軽く頭を下げて座った。
「……本当にありがとう、野坂君。君がいなかったら俺は妹と向き合うどころか、こうして会うことも……本当のAを取り戻す事ができなかった」
「いえ、僕だけの力じゃ彼女を救うことはできなかった。貴方じゃなければ救えなかったんですよ」
「そんなにご謙遜しなくても。……君があの日俺を見つけてくれたから、俺はAと会えたんだ」
あの日……星二郎さんから電話があった後。
アレスの天秤について考えていた時に現れたのは野坂君だった。
『貴方の妹を救うには、貴方の力が必ず必要になる』
そう言った彼の言葉を信じ、俺は今日この日の為に調整を行ってきた。……初対面だったのに何故か彼の言葉を信じることができたのは、きっと彼がAのことを大切に想ってくれているからだと思う。
「君は俺とAを再び会わせてくれた”ヒーロー”だ。君はもっと誇って良い」
「……ありがとう、ございます」
少しだけそっぽを向くその様子は、年相応な反応に見えてどこか微笑ましい。
「……これからAはどうなるんですか？」
「とりあえずはメンタルケアが必要なのは間違いないと思う。俺が入院している病院で診て貰えないか頼むつもりさ」
……あ、病院というワードで思いだしたけど。
「君は大丈夫なのかい？ ……病気、何か持ってるんでしょ」
俺の言葉に野坂君は少しだけ目を見開いた。
どうやら試合中にあんな状態になっていたというのに隠せているつもりだったらしい。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 73人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
