335 ハロー、もう1人の僕 ページ46
・
……て
「ぅん……？」
声が聞こえる。
兄さんの声じゃないのは分かる。だって声が高いもの。
「起きて」
「！！」
はっきり聞こえた声に意識が覚醒する。
目を開け視界に広がったのは真っ白な空間と……
「僕……！？」
自分に似た誰か。
……どう見ても自分にしか見えない人物に僕は驚きが隠せない。
「そう、自分は貴女」
「ほ、本当に……？」
コクッと頷く自分。なんだか不思議な気分だ。自分と話すなんてさ……もしかしてこれ、夢？
「思い出せたんだね。良かった」
「え？」
「自分は貴女を守る存在。本能と言っても良いかもしれない。あの日、貴女は自分を見失う所だった」
あの日……あの日ってもしかして、僕がアレスシステムを受けた日のこと？
僕はあれを受けた為に記憶を失っていた。
こうして思い出すことができたのは……目の前にいる自分のお陰？
「そう」
「ぅえっ！？ なんで分かったの！？」
「自分は貴女。考えている事が分かって当然」
僕は君の考えている事分かんないけど……そう思ったけど口に出さないでおく。きっと分かっているんだろうけどさ。
「自分は貴女の大切な記憶を守った。それだけ」
「……でも、君が守ってくれなかったら僕は思い出すことができなかった」
「自分だけじゃない。貴女の周りにいた人達の力もあったから」
「僕の周りにいた人……？」
この状況に混乱しているからなのか分からないけど、自分が言っていることが分からない。一体誰の事を指しているんだろう。
「眠っていた貴女の代わりに自分は表に出ていた。その時の記憶をまだ貴女に渡していないから、分からなくて当然」
「先に言ってよそれ……」
なんだかつかみ所がないな、僕……。
でも、その姿を見ると懐かしい感覚になる。
目の前にいるもう1人の僕は、幼い頃の僕によく似ていた。
女だからサッカーをするなと言われ、女の子らしさを捨てる前の僕に。髪が長いから二つ結びにしていた頃の小さい僕がそのまま大きくなったような感じだ。
「自分が見てきたこの記憶も貴女のもの。だから貴女に渡すね」
僕がこちらに手を向ける。小さな光が僕の元へ放たれ、ぶつかった瞬間……いろんな記憶が流れてきた。
……あぁ。さっきいた人が誰なのか分かった。自分の過ちで記憶を失った馬鹿な僕に真摯に向き合ってくれた人だったんだね。
彼だけじゃない。
もう1人、こんな僕にずっと関わってくれた人がいる。忘れかけていたサッカーの楽しさを繋ぎ続けてくれて……そして、思い出すことを考える切っ掛けをくれた人なんだね。
･
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 73人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
