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「俺は誰かさんみたいに赤の他人……はちょっと言い過ぎか。自分と深い関係でもない人のためにも命を賭けられるような”できた人間”じゃない」
そう言って兄さんは僕の後ろにいる誰かを横目に見た。
……何となくだけど、兄さんが誰の事を言っているのか分かる気がする。
「でも、身近にいる人のためなら俺はどんな手段も使う」
「……ッ」
「今後も妹を利用しようとするなら……俺にだって考えはあります」
「……後悔するのはお前達だ。私はお前達がどうなろうと知らん」
そう言って男性は部屋を出ていった。
”後悔するのはお前達だ”
僕にはその言葉の意味が分かっている。だからこそ、不安でたまらない。けれど……
「A！！」
今だけは安心しても良いかな。
やっと思い出せた大切な人と会えたことが嬉しくて、気が抜けてしまった。
誰かに身体を受け止められた感覚を覚えたのを最後に、僕の目の前は真っ暗になった。
＊＊＊
「おっと……」
倒れる妹の身体をなんとか受け止める。状態を確認して安心していると、こちらに駆け寄ってくる2人に顔を向けた。
「大丈夫なんですか……？」
「気が抜けちゃったんだろうね。余程怖い思いをしたんだろう」
自分の腕の中で眠るAの顔を見れば、どこか安心しきったように見えた。……今だけはこれまでのことを忘れて休んでほしい。余計な事は考えないでね。
Aが無事であると分かったのか、妹の近くにいる彼……野坂君はホッとした表情を浮べた。
「……俺は先に行ってるぜ」
「ああ」
「ありがとう、灰崎君」
「……ふんっ」
俺の言葉にそう返した灰崎君は部屋を出ていった。……あ、そう言えば。
「野坂君。君はいいのかい？」
「……何がですか？」
「君の事、待ってる子がいるんじゃない？」
野坂君にここ……月光エレクトロニクス社に来た際に見かけた女の子について俺は伝えた。
俺はその女の子に野坂君を見てないかと、名前ではなく容姿で伝えたのだが……
『野坂君なら○階へ……！』
まさか名指しで返ってくるとは思わなかった。
知り合いだったのかと思うよりも先に、きっと彼女と彼はそういう関係なのかなって思ってたんだけど……。
「……あぁ、もしかして杏奈さんかな」
「やっぱり知り合い？ ……いや、もしかしたらそれ以上かも」
「いえ、違いますよ。……前々から彼女が僕に好意を向けていることは知ってましたけどね」
どうやら違うらしい。そう思っていると「それに……」と、野坂君が言葉を続けた。
「こんな僕にもいるんです。好意を持った相手が」
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
