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「”デスインフェルノ”」
光を失い、炎を纏う翼を広げたAが空を舞う。火の粉と羽根を散らしながらゴールへ刺さった技に僕は目を見開いていた。
「どうして、使うなって言ったのに……！」
舞い降りてきたAの元へ僕は自然と足が動いていた。
「A、僕は使って良いと言ってない……！」
僕の言葉にAが振り返る。その時の顔を見て、また僕は目を見開いてしまった。
「貴方の指示にはもう従えません。今、自分はオーナーの指示の元、動いています」
久しぶりの敬語口調を向けられたことにも驚いたが、何よりもその言葉を告げたAは＿＿＿涙を溜めていた。
……まさか、分かっていて僕の指示に背いた？
そう思った瞬間、僕の視線はあの人……オーナーがいる場所へと向いていた。
「あの人は彼女の事をなんだと思っているんだ……！」
そんな事を思うのは今更か。やはりあの人にとってAも僕達と同じ商売道具だ。それも僕達以上に扱いやすい道具。
Aは事実しか話さない。だからオーナーが指示を出したという事は本当なんだろう。僕が把握していないと言う事は、A以外のメンバーも当然知らない。つまり、A個人に向けて指示を出したのだろう……このイレブンバンドで。
「！ まてよ……？」
さっきAは何回必殺技を使った？
僕が使うことを禁じた理由は、まずあの技が彼女の体力を大幅に消費する技であったこと。もう一つは……彼女の身体に影響を及ぼす可能性が少なからずあることだった。
威力が高いから、それ故の反動が大きいのだ。特にAは女の子で体格も小さい方だからだと僕は推測している。体力は男子と渡り合えるほどある彼女に、こんな捨て身のような弱点があるとは思いもしなかった。
話を戻そう。
Aは”ザ・ブラスト”を3回、”デスインフェルノ”を1回使用した。これだけで既に体力はかなり削られているはず。
「はぁっ、はぁ……っ」
後ろ姿を見てみたが、肩が上がっているように見える。次使ったとして、持つか持たないかだろう。
Aはあの短時間で同点まで持っていってくれた。もうそうだけで十分だ。
「A。次は僕にボールを回してくれ」
「聞けません」
「お願いだ、このままじゃ君が倒れてしまう……！」
Aは僕の言葉を聞くことなく自分のポジションへ行ってしまった。間もなくして試合が再開される。
……止めないと。どこかに彼女を止められる何かがあるはず……！
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
