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思いだしたから気になる事なのだが、どうして自分は氷浦の事を忘れていたのに、ゆうま……王帝月ノ宮の事を忘れなかったのだろう。
氷浦に関する記憶が消えていた。サッカー選手としての彼のデータはあったのに、それ以外の事……氷浦に教わった内容が今さっきまでは思い出せなかった。
「A」
「……ゆうま」
考え込んでいると、悠馬が声を掛けてきた。
「氷浦君の事を思いだして、雷門に勝たせたい何て事考えていないよね？」
……ゆうまはこの試合で自分が私情を持っていないか確認したいらしい。
「ない。氷浦は自分にとって様々な事を教えてくれた人……だからといって、雷門に勝たせるつもりはない」
「さっきまで君は氷浦君を見る度に動きを鈍らせていたから気になってね」
……確かにさっきまでの自分は、ゆうまの言う通り氷浦を見る度に動きが止まっていた。事実だ。
「……さっきまでは氷浦のことがずっと引っかかっていた。だから集中できていなかった。けれど今は違う。その引っかかりもなくなった。だから、大丈夫」
もう試合中に別の事は考えない。
その意味を込めてゆうまにそう伝えた。
「……そうだったね。君は君自身の目的の為にサッカーをしている。そこに私情は挟まない、その目的の為だけに君は走り、ボールを蹴るんだものね」
「うん。……でも今はそれだけじゃない」
「え？」
首を傾げるゆうまの正面に移動し、目の前の人物の顔を見上げる。
「王帝月ノ宮のみんなを……ゆうまを自由にするために。自分は頑張るよ」
今自分の中にある目的は二つ。
一つは初めから何一つ揺るがない目的、大切な人を救うために。
二つは……今日試合前にゆうまから伝えられた言葉。この試合に勝ち、王帝月ノ宮イレブンを自由にする。
そのために自分はフィールドを駆け回ろう。ボールを蹴ろう。
「一つ訂正だ」
自分のポジションへ戻ろうとした所、後ろからゆうまが指摘があると口にした。その言葉に首を傾げつつ、ゆうまの方を振り返った。
「僕は言ったはずだ。君にも自由になってほしいと」
「それは……」
「僕のお願い。君にしか叶えられないお願いさ」
……ゆうま。
貴方はそれが心の底から願うことだと言った。けれど、
「ごめんなさい。自分には叶えられない。
自分に自由は許されない。
そうオーナーが言っていたから、自分はみんなと……ゆうまと一緒に自由にはなれないんだ。
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
