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「A！」
誰かが彼女の名前を呼んだと同時に、Aさんの元へ飛び込む影が見えた。その後俺のシュートがその影を通り過ぎた。
「！？」
こんな状況だったからなのか、王帝月ノ宮のゴールキーパーはシュートの反応が遅れ、ゴールを許してしまった。
3-3
自分のシュートで同点になったわけだが、俺はそのことに対する喜びよりAさんが気になっていた。
「Aさ……！ ……野坂」
走って駆け寄れば、そこにいたのは予想通りの人物だった。Aさんを守るように抱きしめ倒れている状態だったが、俺の声が聞こえたからなのか起き上がってこちらを見た。
「大丈夫だよ、氷浦君。君のシュートには僕達当たってないから」
「それは良かった……けど、どうして避けなかったんだ」
野坂の隣で座り込んでいるAさんの目線に合わせるように片膝を突き、そう問いかけた。Aさんは俯いてばかりでこちらを見ようとしない。
「野坂が飛び込んでくれなかったら怪我していたんだよ！？」
「……ごめん、なさい。頭が上手く動かなくて、何が正しいのか分からなくなって」
そう言葉を口にしたAさんの声は震えていて。
俺はAさんがこのような状態に至った経緯は知らない。でも、もしかしたらという要因はあるんだ。
「俺が話したことがAさんの邪魔になってるんだね」
「！」
それしか思い着かない。
気づかない訳がなかった。俺を見るAさんの顔は苦しそうだったから。俺が彼女を邪魔していることは明らかだったんだ。
「……君が言ったとおり、忘れるべきだったのかな」
俺はAさんを想っての行動だった。しかしそれは逆にAさんを苦しめてしまっていた。だったらこれ以上は踏み入ってはいけない。……彼女の為に。
「もう話はしないから。……さっきまで俺が話したこと全部忘れて」
ごめんね
そう言ってAさんから背を向けようとした。
「＿＿＿”嫌だ”」
「！」
「……自分が忘れてくださいと言った言葉に対して、貴方はそう答えました」
Aさんの言葉に俺は無意識に振り返った。
ゆっくりと顔を上げるAさんの表情は、声は＿＿＿
「……やはり聞いてくれなかったのですね、”氷浦”」
＿＿＿俺が知っているAさんそのままだった。
「おもい、だしたの……？」
俺の問いに対し、Aさんはその大きな瞳に涙を溜め、ゆっくりと頷いた。
しかし、その瞳はまだ暗いままだった。
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
