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前半戦が終わった。
2-3で今は王帝月ノ宮が優勢。しかし、後半戦で向こうが逆転したら……？
「……ダメ。そんなこと絶対させない」
自分は王帝月ノ宮を必ず勝利へ導くために存在している。そして、この試合で優勝することが自分とオーナーが交わした契約。
気を緩めるなんてことしない。この状況を全力で死守するんだ。
「Aさん」
「！」
後ろから呼ばれた声に反応し、振り返る。
そこにいた人物に「やっぱりこの人だったか」と感想が頭の中で浮かぶ。
「……また貴方ですか」
「そう言われても、俺は何度だってAさんに話しかけるよ」
『……やっぱり、俺の事覚えていないんだな』
試合開始前、自分に向けてそう言った氷浦貴利名の言葉を思い出す。
「違うだろ。氷浦貴利名じゃなくて、氷浦」
『氷浦。……Aさんは俺をそう呼んでたよ』
試合中、自分が彼をフルネームで呼んだ際にそう指摘されたことを思い出す。
……どうして彼の言葉に疑問を覚える？
自分にそのような記憶はないと切り捨ててしまえば良いのに、どうして自分は相手の言葉を受け止めている？
「……どうして、そこまで……？」
「さっきも言っただろ。思いだしてほしいからって」
『何度でもするよ。俺はAさんに思いだしてほしいから』
……これも試合中に言っていた。
どうして自分はこの人の言葉を理解したいと思っている？
「……”氷の矢”」
「！」
「俺の必殺技を見て何を思ったの」
”氷の矢”
雷門のデータをインプットする上で、氷浦貴利名という選手が使う必殺技は勿論把握していた。珍しいパスタイプのオフェンス技であるが、利根川東泉中学校との試合ではシュート技に応用していた。
それだけのデータだったはずなのに
初めて聞いたときは何も思わなかったのに
……どうして彼と話しただけでこんなにも”氷の矢”が気になる？
「綺麗だった」
「え？」
「俺の必殺技を見てAさんはそう言ってくれたんだ。綺麗だったって」
『”氷の矢”。貴方の必殺技、とても綺麗でした』
あれ……？
この声、自分の声……？
記憶にないはずなのに、言った覚えがないのに……一体いつそんなことを……？
「＿＿＿ッ、？」
頭に走った痛み。
その痛みは一瞬で、すぐに治まったが……この痛み、先程も感じた。
『大丈夫か！？ しっかりしろ！！』
あの言葉を言っていたのは本当に氷浦貴利名なのか？
だったら何故自分にその時の記憶がない？
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作者名：恵野 | 作成日時：2022年8月11日 13時
