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あの後、雷門の試合も相手側が棄権した。そして、何の因縁なのか、再び雷門と星章の二度目の試合が実現した。
それが本日行われる。
「なんですか？それは」
「スタジアムグルメ『トゲもじゃやきそば雷おこしサンド』だよ」
「……なんですか。そのトゲって」
「さあ。とりあえず、西蔭の分はトゲ大盛りにして貰ったから」
先程買ったトゲもじゃやきそば雷おこしサンド3つのうち、既に赤いものがはみ出している方を西蔭に手渡す。
受け取った西蔭は微妙な反応をしていたけど。
「Aにはこれを」
Aにもトゲもじゃやきそば雷おこしサンドを手渡す。あ、彼女の方のトゲの量は僕と同じ量だよ。
Aは僕から受け取ると、不思議そうにそれを見た後、僕を見た。
「食べていいよ。僕も西蔭も後で食べるから」
「……分かった」
僕の言葉に、Aはフタを開けた。
顔を近付けて匂いを嗅ぎ、割り箸を割ってゆっくりと食べ始めた。
「味はどう？」
「……舌が少し痛い」
「おや。嫌いだったかな」
「分からない。……好きか嫌いかも」
恐らく『辛い』と言いたいのだろう。……味覚はあるようだが、それを表現する言葉をAは知らない。
前にアイスクリームを買い与えた事がある。その時、Aはこう表現したのだ。『食べやすい』と。
以前の彼女が食に対してどう思っていたのかは知らないが、今のAは食に対して何も感じていないらしい。
人間の三大欲求と言われている食欲……空腹は感じるらしい。しかし、現在の彼女にとって食事は空腹を満たすだけの存在だ。それさえ満たせば、食べるものは何でもいいのである。
僕にだって好き嫌いはある。彼女にはそれがないなんて……ありとあらゆる記憶を、感情を消去されてしまっているようだ。
「食べきれないなら残してもいいよ。余裕があれば僕が食べるから」
「分かった」
一応昼前に連れ出したので、お腹は空いているはず。そう思いながら、一度目を離したAにもう一度視線を移す。
そこには少しだけ頬が膨らんだAがいた。どうやらお腹が空いていたらしい。
最初に食べた焼きそばを放って、Aはサンドの方を食べていた。……あ、止まった。もしかして舌がピリッとしたのかな。だって名前に雷おこしサンドって書いてあるし。
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作者名：恵野 | 作成日時：2021年6月6日 0時
