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「A…お願い、いなくならんで…」
「きみくん、」
「お願い…」
きみくん、
そう言いながら俺の腕をほどいたAは正面から目を合わせた。
「わたし、きみくんから離れたりしないよ。
もし誰かがあなたの前からいなくなるようなことがあったとしても……わたしは絶対にどこにもいかない。」
「………ほんま？」
ゆっくりとうなづいたA。
「…わたしがどれだけきみくんのこと好きか分かってる？」
「……でもおれ、アイドルやし…情けない姿ばっかり見せとるし…」
弱音ばかりが口をつく。
Aは、ふふっと微笑むと俺の手を握った。
「きみくん、よく頑張りました。」
「…いまも…よく頑張ってるね。」
えらい、えらい
と俺の手を親指の腹でそっと撫でる。
昔から、いろんな苦労を味わって来た。
親のこと、兄弟のこと、祖父のこと、Jr時代のこと、
あげたらきりがないけど
「……おれ、……ちゃんとできとる？」
「うん！十分すぎるぐらいだよ、
…でも…きみくんは今までたくさん人のために頑張って来たんだから。
次は…自分のためにやりたいことやって？」
母を亡くして弟達を育てるんは自分やと
そう決心した日から、
俺のゴールはただひとつで。
ようやく、あいつらの将来に心配がなくなるぐらいまでになって
嬉しいはずやのに
なぜか俺は、どこか空虚で。
この先なんのためにこの仕事を続けるのか
自分の目指してるものは何なのか
はっきりしたものが何もなくて。
「…みんなを笑顔にしようと頑張ってるきみくんが大好き。」
でもこうやって、
こんな風に言ってくれる人がおって。
俺はたくさんの人を笑顔にしたいって
そのためにこれから色んなものを学んでいかなあかんって
さりげなく道を示してくれる君は
足元に置いてあるAのカバンには
たくさんの資料が乱雑に入ってて
頑張って仕事を終わらせて来てくれたんやなって。
自分がチョコを渡したら
俺がファンの子達に罪悪感を感じるってちゃんと考えとってくれて。
「…A」
グラスの横に遠慮がちに置いてあった小さな一粒のチョコ。
「…ありがとう」
Aがしてくれるどんな小さなことも気付いて、伝えたい。
「…好きや」
ゆっくりと目を閉じた君の唇に、
甘い約束。
アイドルゆえの fin
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作者名：めー | 作成日時：2017年2月15日 22時
