白衣の天使じゃないけれど (ページ29)

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８．情緒不安定ページ29

「じゃあ康二くん。今日病棟の飲み会だからよろしくね」
「おん、了解！あ、俺も今日帰るの夜になるし迎え行こか？」
　そう、今日は以前から計画されていた職場の飲み会。
　康二くんからの提案にうーんと考えるけど、さすがにお疲れのところ悪いなとお断りした。
「じゃあ何かあったら連絡してな」
「ありがとー」
　というのが朝のやり取りで……。

「あのAちゃん、ずっと好きだったんだよね」
「あ……ありがとうございます」
　お酒も入って周りのテンションがMAXになった頃、皆が自由に席を移動し始め私の隣には先輩の男性看護師さん。
　しっかり仕事もこなすし、患者さんにも職員にも優しいし特に問題はないけれど、お酒が入ってから、やたら距離が近い気がする。
　ジワジワと１ミリずつくらい近づかれ、私も同じくらい後退する。
　しかも、私のことは苗字でしか呼んだことないのにお酒とは怖いものだ。

「そういえばAちゃんは彼氏いるの？」
(聞く順番おかしくない？)
　好きとか言う前に彼氏の有無は確認するのではないのかと思ったけれど、どうやら酔っ払いには関係ないらしい。
「そういえば聞いた事ないですね！」
　急に横からカットインしてきた女の子の後輩が、目を輝かせる。
　というか、彼氏が向井康二なんて言えるわけもない。
「まぁご想像にお任せします」
　苦笑いではぐらかし、チラリと自分の腕時計を見る。
(もうそろそろ終わる時間……！)
　幹事の挨拶があったらすぐに帰らなければ。
　一刻も早く康二くんに癒されたい。
「すみません、ちょっとお手洗いに行きます」
「あー！先輩逃げた！」
　後輩の言葉をスルーし、私はトイレへそそくさと向かう。
　個室に入ると、私は康二くんにそろそろ終わりそうだとメッセージを入れる。
　思いのほかすぐに既読がついて、電話がかかる。
『もしもし？迎え行かんでええ？』
　先程の飲みの席でのやり取りを思い出し、康二くんの優しさに甘えることにした。
　居酒屋の場所は家からさほど離れておらず、康二くんは快くオッケーしてくれた。
「じゃあ待ってるね」
『了解ー』
　電話が切れ、私は最後の大仕事に向け深く息を吐く。