７話 余命 ページ8
302号室のドアを開けると、ベッドにめるが寝ていた。茶色のニット帽を被っている。個室らしく、他の人はいなかった。めるはまどろみの中、カーテンの向こうにある外の世界に視線をやる。
唖然とした。一言も声が出なかった。
「来てくれたんだね」
俺は、トートバックを落とした。めるに歩み寄る。か細い声はずっと頭の中でこだまし、それは喉をつーんとさせる。
「あのね、卵巣ガンなの――」
ガンという言葉を聞いて、俺はめるの横にひざまづく。めるから生命力を感じなかった。めるは泪を静かに流しながら、俺に話を続けた。俺はもう挫けそうで、涙腺が壊れてしまって、嗚咽が制御できなかった。
「ガンが全身に転移してるって。大学を辞めたって言ったでしょ？ ちょうど、直人に会った時だね。その頃から分かってて、親は余生を満喫しろって言ってたの。
私は降りて来たお金でカフェをやるんだって言い張って。それで喧嘩になっちゃってね、夜公園にいたんだよ。
直人に声をかけられた時はビックリした」
力のないめるの腕を握り、俺は泣き続ける。めるが頭を撫でてくれて、俺は余計に泣いた。悲しくて仕方なかった。
めるからは、薔薇の匂いも、そしてバニラの匂いもしなかった。
「今日のお昼から、卵巣ガンの手術なの。怖くなってメールしちゃった」
「いいよ、いいよ、いいよ……」
慰める立場の俺が、頭を撫でてもらっていた。情けなくて仕方ない。辛いことを全てを打ち明けてくれためるは、泣いているはずだ。今日ある手術が怖いはずだ。
「余命は？ 余命はどのくらいなの」
「長くて短い。３ヶ月だって」
「３ヶ月……」
夢を追いかける少女には、あまりにも短い時間だ。
「３ヵ月後に、直人がプロデビューしてたらどうしよう。私、ＣＤ絶対買いたいな」
「うん、うん……」
めるの言葉に、俺は頷くことしか出来ない。何も出来ない。
「直人のギター聴きたいな」
「…………」
今日は偶然にもオーディションは昼。めるの手術と同じ時間だった。５時からラーメン屋のバイトがあるが、それまでならめるの近くにいられる。
「手術終わったら、ギター持って来るよ」
「ほんと？」
「だから死ぬとかさ……」
「藤沢隊長！ 水嶋める隊員は手術室から生還するであります！」
俺は顔を上げて、めるの笑顔の敬礼を見る。
「おう」
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レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 架空夢想像さん» イベントに参加させてもらった者です。御高覧、ありがとうございます♪ 作品との出会いって大事ですよね(*^O^*) (2015年9月9日 20時) (
レス) id: 6298628eb9 (このIDを非表示/違反報告)
架空夢想像(プロフ) - とてもいい作品でした！この作品に出会えたことに感謝です (2015年9月9日 19時) (レス) id: d18e4db244 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 山吹草さん» 山吹草さん、ありがとうございますー！ 私もめるちゃん大好きだー！(*^^*) (2015年5月20日 11時) (レス) id: 6298628eb9 (このIDを非表示/違反報告)
山吹草(プロフ) - キャラがとてもいきいきしていて、思わず感情移入してしまいました！ 何よりめるちゃんが可愛い…♪ 最初はニコニコしながら読んでいたのですが、屋上のシーンから涙がとまらな…く… あ、あれ？また涙が…。(あ、これマジの方です。) (2015年5月20日 5時) (レス) id: e8988734ef (このIDを非表示/違反報告)
ナンシー・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 最後まで読んでくださってありがとうございます！ 泣くと身体に良いそうですね。俺も泣こうかな……。/めるがもし直人に会ってなかったら……と思いながらエピローグを書かせていただきました。俺は、小さな恋の歌を聞いてましたねｗ しょこたんも聞こう……ｗ (2014年9月29日 20時) (レス) id: e3161d1476 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ナンシー・ハジェンズ | 作者ホームページ：https://twitter.com/seshiru777777
作成日時：2014年9月20日 20時
