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最低なことをしているという自覚はあった。
けれども、寝ているエースにキスをしてしまったあの日から、彼への想いや欲望に歯止めが効かなくなっていった。
無意識に目で追いかけたり、何かと理由をつけて彼に触れたり、借りた上着を隠れて抱き締めたり。
今から何をしたって遅いのに。
彼の1番には、もうなれないのに。
未練がましく彼の見えぬところで彼に縋りついて……
今日も、愚かで惨めなことをし続けている。
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side:A
"ずっと前から、好きだった。"
ありもしない嘘を、ベラベラと語る自分を心の内で嗤った。
もし目の前の女の子が、"彼女"だったら…きっと…
心の奥底には、そうやってぶつくさと後悔を垂れている惨めな自分がいた。だから俺は、そんな自分を嘲り、他人事の様に冷たい言葉を投げつけた。
卑怯だ、と。
気付いた時には好きになっていた。
異世界から来た、魔力のない女の子。異性だらけのむさ苦しいこの学校で、ひたむきに頑張るその姿に、俺は心を奪われた。
けれども、俺はその想いを伝えることはなく、"偽物"に取り入ることにした。
親友という関係は、存外居心地が良かった。
だから、俺は躊躇した。
もしも告白を拒絶されたら、彼女と築いてきた関係は一瞬にして崩れ去るのではないか…
そう考えると怖くて仕方がなかった。勇気を持って1歩踏み出すよりも、もっと簡単で楽な道を選んで足を踏み入れたのだ。
…俺は、臆病者だ。
最低なことをしているという自覚はあった。
わざわざ、そっくりな髪型、そっくりな顔、小柄な彼女にによく似た背丈の子を選んで、嘘の告白をして、恋人になった。
"ニセモノ"に彼女を重ねて、彼女への愛の言葉を囁いて、彼女にしたくてもできないことをした。
小さな手を繋いだり、じっと見つめ合ったり、その頬や髪に触れ、キスをしたり。
いくらニセモノを愛しても、心は満たされないのに。
もう、後戻りは出来ないのに____。
「…A、大好き。」
カノジョを抱きしめながら、彼女への愛を囁く。
今日も、愚かで惨めなことをし続けている。
臆病者に相応しいのは。 end
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーカラー
あずきいろ
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作者名:わん | 作成日時:2023年12月12日 18時