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「……それで……どう、でしたか?
い、癒されましたか……?」
先輩とハグをした後、私は何とか落ち着きを取り戻した。
先輩から出されたティーカップを片手に、心臓がトクトクと早鐘を鳴らすまま、私は口を開いた。
自分からハグしに行っといて、なんだかすごく烏滸がましいことを言っている様な気がするが…要求してきたのは先輩の方だ。私は何も悪くない。
震える声でそう尋ねると、先輩はすっと目を細めて笑った。
「お陰様でな。
…またお願いしてもいいか?」
「んぐッ!?……ゲホッゴホッ…ッ」
"また"という言葉に、紅茶を吹き出しそうになる。慌てて飲み込んだそれが気管に入り、勢いよく噎せた。
先輩は人の事をいくらでも流すくせに、自分は流されない人だった。
「……"何でも"、してくれるんだよな?」
眼鏡の奥のトパーズ色の瞳が、怪しく光っていた気がした。
それからというもの、私は毎日のように先輩の部屋に通った。何でもすると言った手前、もう後には引けなくなってしまったのだ。
トレイ先輩はというと、ケーキを作っていたり、書類をまとめていたり、机に向かって書き物をしていたりと、いつも部屋で何かしら仕事をしていた。
でも、私が訪問しに来るや否や、その手を止めて、毎度の如く手を広げハグを求める。
…慣れというのは恐ろしいもので、ふと気づけば私も日課の如く、先輩の背中に腕を回していた。初めは恥ずかしくて30秒も持たなかったのだが…今では先輩の膝の上で、先輩と向かい合うようにして座り、抱きしめ合えるくらいには……
って、
……あ、れ……?
いつから、こんな感じになってたんだっけ……?
なんで、私、こんなに先輩に近づいて……??
頭の中にモヤがかかる。
ふと、冷静になって考え始めた時、ミントグリーンの短髪が私の首を擽った。ハッと我に返ると、眼鏡を外したトレイ先輩の顔がすぐ目の前にあった。
眼鏡をつけてない先輩は、掛けている時よりも、より目尻がキリッとして見える。別人とまでは行かないが何割増か格好よく見えた。もちろん、掛けていても格好いいんだけど……
「…………いいか?」
すり、と先輩の細長い指が耳の縁を撫でていく。
……ん?何が?と聞き返すまでもなく、先輩の綺麗な顔が近づいてきた。
「……っ!!!」
ちゅ、と頬に柔らかい感触が触れる。
その瞬間、頭の中のモヤが晴れ、今に至るまでの全てを鮮明に思い出した。
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作者名:わん | 作成日時:2023年12月12日 18時