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「…………ん、今なんて言った?」
「…ですから、今日からトレイ先輩の疲れが取れるよう私がお手伝いする、と言っているんです!
その為なら、何でもしてみせますよ!
ほら……パシリとか!」
歓迎会の翌日、その日の夜。
私はまたトレイ先輩のお部屋にお邪魔していた。
トレイ先輩は少し驚いた顔をしながらも、快く私を部屋の中に通した。
部屋に入ってすぐ様、私に何か出来ることはないかと先輩に詰め寄った。
トレイ先輩は相変わらず疲れているようで、時折眼鏡を外し、眉間の皺を指で抑えて解していた。…昨日よりもクマが濃くなっている気がする。
「………ははっ、そりゃどうも。
ただ、生憎俺は後輩を使いっ走りさせる趣味は無いからな。その気持ちだけ、有難く受け取っておくよ。」
トレイ先輩は強い意志を持って見上げる私の頭をぽんぽんと撫でると、話を流すように今日も紅茶でいいか?と聞いてきた。しかし、ここで引いてはいけないと私は食い下がる。
「……パシリは例えの1つです。
勉強……は…ちょっと、力になれなそうですけど……
ケーキ作りでしたら、手伝えるはずです!私、お母さんの手伝い沢山してましたので!ほら、さっきも言いましたよね、私、何でもしますって。
だから、雑用でもいいですから遠慮なく……」
戸棚からカップを出していたトレイ先輩の手が止まる。
「……"何でも"?」
こちらに背を向けたまま、確認する様に聞き返してくるトレイ先輩。
今度はまともに取り合ってくれそうな雰囲気を感じ取り、私は食い気味に頷いた。
「……はい!」
「……」
トレイ先輩はぱたんと戸棚を閉めると、私の方に向き直る。
そうして、私の目の前まで歩み寄ると、にこっとこちらに笑いかけた。
「じゃあ……ん。」
「え。」
予想の斜め上を行く行動に私は口を開けたまま固まった。
トレイ先輩はパッと両手を開き、明らかに"ハグ待ち"の姿勢をとっていた。
"……だからここは、Aちゃんがトレイくんをぎゅーっとハグしてあげてさ♪"
"癒しが必要なのは分かりますが……さ、さすがに、は、は…ハグは、できっこないです!"
昨夜のケイト先輩とのやり取りが頭を過る。
奇しくも昨日話した通りになるだなんて……!
ふと、様子を窺うように先輩の顔を見上げると、僅かに口角を上げ、試すような表情で私を見つめていた。
何でもすると豪語した私が、動揺する様を嗤っているようにも見えた。…悪い大人の顔だった。
「……っ!」
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作者名:わん | 作成日時:2023年12月12日 18時