【ツイステ】監督生の体液は、魔力を増強させる性質があるらしい。【短編集】 (ページ31)

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トレイ先輩の部屋までやってきた私。
右隣の部屋には、"A・グリム"と書かれたネームプレートが掛かっているのが見える。

後から気づいたことなのだが、トレイ先輩の部屋はなんと私たちの部屋のお隣さんだったらしい。

｢……、｣

ふう、とひとつ深呼吸をし、扉をノックする。

……

…暫くの間。
慌ただしい足音が聞こえ…それから、勢いよく目の前の扉が開かれた。

｢……っ悪い、待たせた…

…って、A…か……？｣

｢あっ…はい、こんばんは！
えっと、本日から仮入寮することになりました、監督生のAです。｣

ぺこり、とお辞儀しトレイ先輩の顔を見上げる。
トレイ先輩は学校ではなかなか見ない、エプロン姿だった。部屋の奥からはふんわりと甘いホイップクリームの香りが漂ってくる。…ケーキを作っていたのだろうか。

少し驚いたように私を見つめるトレイ先輩。その目の下には、薄いクマができていて、心做しか疲れているような顔つきだった。

"……そう。ここ最近はずーっと忙しいみたいでさ〜、リドルくんの補佐の仕事がある上に、魔法史のグループワークの発表でリーダーを務めてたり、来週に迫った何でもない日に作るケーキのレシピ考えてたりで本当に大変みたい…………"

ふと、ケイト先輩の言葉が蘇り、少し胸が痛くなる。
疑っていた訳じゃないけれど…ケイト先輩の話は本当らしい。

｢まだ歓迎会は終わってない…よな。
もしかして、挨拶に来てくれたのか？｣

｢あ、えっと…はい……そんなところでしょうか…？｣

本当はケイト先輩に無理矢理連れて来られただけなんですけど…

｢そう、か。…わざわざありがとう。｣

ふと、トレイ先輩の纏う雰囲気が柔らかくなった。
眼鏡の奥の瞳がゆっくりと細められる。
ふわり、と微笑むトレイ先輩に思わず見蕩れかけ、私はふるふると頭を振った。

｢い、いえ、滅相もないです…

あ、その…ケーキ、頂きました！
トレイ先輩が作られたんですよね？
とっても、美味しかったですよ。｣

ふと、先程食べたケーキの存在を思い出してそう告げる。すると、トレイ先輩は一瞬目を丸め、それから嬉しそうに笑顔を浮かべた。

｢そうか…ふ、喜んで貰えて良かったよ。
昨日、徹夜して作った甲斐があった。｣

何の気なしに先輩の口から零れた言葉に私は自分の耳を疑った。

徹夜……？

｢……え？徹夜!?｣

私が素っ頓狂な声で聞き返すと、トレイ先輩はハッとしたように口に手を当て、気まずそうに目を逸らした。