【ツイステ】監督生の体液は、魔力を増強させる性質があるらしい。【短編集】 (ページ21)

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ジェイド先輩への恋心を意識するようになってから、数週間後のことだった。
廊下を歩いている時に、近くから誰かの話し声が聞こえてきた。

｢ジェイド〜、あのイワシちゃんをフッたって本当ぉ？｣

息が、詰まる。
ピシッと心のどこかに、ヒビが入ったような気がした。

"小エビちゃん"と呼ばれ慣れた私は、直ぐにその声の主が分かった。慌てて柱に身を隠し、そっと声のする方を見やれば、背丈のそっくりな2つの影が見えた。

｢えぇ。｣

｢その様子だと、ジェイドは後腐れない感じ？あんなに必死に取り付いてきてたのに、かーわいそ。群れの子達に囲まれて慰められてたよぉ？｣

｢そうですか、悪いことをしましたね。｣

｢あはっ、そんなことぜーんぜん思ってないくせに。｣

"イワシちゃん"と呼ばれた人の存在を、私は知らなかった。話によれば、その人もジェイド先輩に想いを寄せていたらしかった。そして、彼女は私よりもうんと先に彼に惹かれ、彼に想いを伝えていたらしかった。

その事実に、私はグサリと胸を刺されたような気分になった。

｢…ねぇ、なんでフッたのぉ？｣

｢………！｣

痛む胸を抑えながら、私は2人に耳をそばだてた。
本当は、この時に私はここを離れるべきだった。
…でも、どうしても気になって仕方がなかった。
彼がフッたという彼女に一体何の問題があったのか、同じ想いを寄せる身として、聞いておきたかったのだ。

｢___面倒だったので。｣

淡白で短い答えが、廊下に反響する。

__________面倒、

パリン。

ヒビの入った心が粉々に砕け散る音がした。

｢一方的に想いを向けられて、期待の眼差しで見られるのが不愉快でしたから、お断りしたんです。

……わざわざ聞かずとも、貴方なら分かるでしょう？｣

｢あは、分かるよぉ〜
ジェイドは特に、そういうの興味無いもんねぇ。｣

｢……っ｣

私は、耐え切れなくなって駆け出した。
涙が溢れて、視界が滲んで、それでも走り続けた。
絶望の底に、叩き付けられたかのような気分だった。

私が抱いていたこの擽ったくて甘い想いは、彼にとって不愉快だと切り捨ててしまうほど迷惑なものだったのだ。

寮に戻って、ベッドの中で泣いた。
寝室には先にグリムがいて、気持ち良さそうに眠っていた。
だから、グリムを起こさないように。
声を抑えて、ひたすら泣いた。

シミだらけの部屋の中で古時計が時を刻む音と、私の小さな嗚咽だけが響いていた。