【ツイステ】監督生の体液は、魔力を増強させる性質があるらしい。【短編集】 (ページ17)

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エースの顔が近づいてきて、そのまま肩口に埋めてきた。
硬い赤毛の髪が頬を擽る。はぁ、と吐息が首筋を撫で、皮膚を吸い上げる音と共に、ピリッと焼けつくような痛みが走った。

「…っ…!?なにしてっ…」

エースは身動ぎして逃げ出そうとする私の股下に片足を入れ、空いていた隙間を埋めるように、厚い胸板を密着させてきた。壁との間に押し付けられるように体が固定され、思うように動けない。体操着のファスナーを下ろされ、剥き出しになったインナーをずり下ろされる。露になった喉元、鎖骨や胸元に、余すところなく跡をつけられていく。

「…っ、お願い…やめて、エース…！」

じわじわと熱を持ち始める自分の体。
相手は大切な親友だったはずなのに、親友に抱いてはいけない願望が頭をもたげ始める。

熱い唇が皮膚を撫で、ぬるり、と生温いものが首筋を這った時、すぐ近くに感じていたエースの体温が、ぱっと離れていった。涙で滲んだ視界ではよく分からなかったが、誰かに手を引かれ、気付けばその腕の中に抱きしめられていた。
涙でぐちゃぐちゃの顔に誰かの胸が押し当てられ、ふわりと香ったその匂いに、私は絶望した。

「……邪魔すんなよ、デュース。」

「……Aが嫌がっている。」

2人が頭上で言い争っている。
両者は至って冷静だったが、今まで味わったものの中でも最高に険悪なムードだ。
私を見つめる2人の瞳は、噎せ返るほど甘く蕩けていて、それでいて、首元に刃を突きつけ、今にでも切りつけてしまいそうなほど鋭かった。

…あぁ、逃げたい、全て無かったことにしてしまいたい。

そう思っていても現実は残酷で、湿った唇を親指で拭い、じっと私を見つめてくるエースも、それから覆い隠すように守ってくれているデュースも、私を逃がしてくれる気は毛頭無いようだった。

確かに線引きしていたはずの関係は、気付けば無秩序に交錯してしまっていた。

デュースの手が私の髪を愛おしげに撫でつける度に、エースに付けられた赤い跡がヒリヒリと疼く度に。

"マブダチ"など今はただの妄言に過ぎないのだと、私に現実を叩きつけてくる。

…もう後戻りはできない。

一体私は、どこで選択を間違えたのだろうか。

無色透明な真水の中に一滴の墨汁が滴り落ちるように。

しきりを抜かれた2色の色水が混じり合うように。

紙に引いた線の上に水滴が落ちて、じわりとインクが広がっていくように。

境界線は、溶けていく。 end