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「お座りください」
「はい。失礼します」
カナメに促され着席すると、まずは名前や現在の住まい、職業等の基本的な質問をされた。
「あなたは幼い頃ご両親を失い保護施設で暮らしてましたが、職員の紹介で惑星アル・シャハルのお弁当専門店で働くことになったそうですね?」
「はい。その職員が店長の親戚でして…。住み込みで働いています」
その事はAのソーシャルセキュリティナンバーで個人情報を調べ知ったのだろう。Aは緊張で鼓動がバクバクとうるさく鳴るのを感じながら、何とか冷静を務めつつ質問に答えていく。
「あなたがこのオーディションを受けようと思った理由はなんですか?」
「…私は昔から歌が好きで…。ワルキューレの歌を聞いてファンになって、私もワルキューレになりたいと思うようになって…」
事実ではあるが本心は語らず答えてゆく。
だが、途中で言葉が止まった。
(カナメさんとこうして話ができるなんてこれが最後だ。もう二度とできない。
これが、最後……カナメさんと話ができる最後のチャンス……)
顔を伏せ黙り込むAをカナメとアーネストは不思議そうに見ている。緊張しているのかと思っていたが、Aはまた顔を上げ緊張した面持ちでカナメをまっすぐに見つめた。
「ワルキューレはもちろん好きですけど……私はカナメさんに憧れて、カナメさんみたいな歌手であり人間になりたいと思っているんです」
最後のチャンス。なら自分の想いを思い切って伝えようと思った。
カナメの青い瞳が見開く。Aのカナメを見つめる憧れと好意がこもった瞳を見れば、オーディションに受かる為に媚びて言っているわけではないのはカナメにもアーネストにもわかった。
(…綺麗。カナメさんの目をこんなに近くで見ることができるなんて。これだけでもオーディションを受けたかいがあったな)
強い意志を感じるカナメの美しい瞳がAは好きなのだ。
「私に…?」
「はい。
…私、テロ事件で両親を失ったショックで過去の記憶を忘れて、全然笑わない人形のような状態になったんです。でも、ある人が私の為に歌ってくれて感情を取り戻しました。歌はすごいとその時知ったんです。
歌で自分の想いを届けて、人の心を動かすことができる。希望や元気や勇気、色んなものを与えることができる。人を変えることができる。この事をその人から教わりました」
「…”その人”というのは歌手なのかね?」
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作者名:空 | 作者ホームページ:http://id38.fm-p.jp/213/7772010/
作成日時:2016年9月13日 7時