19.登場救世主 ページ20
. ベガが出て行ってしばらくして、
「薬きらしてたわ、ちょっと買ってくるわねー」
と、声が聞こえて、玄関の閉まる音がした。
ベガがでかけた。こんなチャンスは逃せない。外に出て誰かに血を貰わなくては……!ベガじゃなければ現状誰でもいいのだ。
そう思うのに、思うように身体が動かない。餓死までもうすぐかもしれない。
何とか部屋から出て、リビングにたどり着く。カーテンの隙間から一筋さす落ちかけの夕日の光。耐えきれなくてかげに逃げる。くるしい。こんなにくるしくなるまえに、もっとどうにかすればよかった……。
ガタン、と大きな音。
「ただいま〜!」
この声は。
ああ、甘い香り。玄関の方を向く。
近づこうとした。
でももう動けない……。こっちに……こっちに……!
「A⁉どうした、病気か⁉」
倒れこむ僕を見つけて、駆け寄ってくる。
こちらに向かって伸ばされた手に──。
僕は噛みついた。
僕の歯が皮膚を突き破って突き刺さる。溢れ出る美しい赤。久しぶりの食事は、それはそれはおいしくて。
「いっ……たい!Aどうした、何があった!血……止まらない……!」
咄嗟に手をひいて、僕から距離を取ろうとして後ずさっている。必死におさえている手からぽたぽた滴れる甘い、甘い赤。
「甘い……」
こんなに甘い血のやつ、なかなかいない。僕の滅多に上がらない(と周りに言われる)口角が上がる。この状況もあるかもしれないが、こんなにおいしいやつを!
「何も無いぞ……?」
後ずさっても、そこは壁。
「ただ、お腹が空いただけだよ、A」
逃すわけないだろう?
一瞬。驚きの隙に、僕はAに飛びかかる。
「うわあああああ!!」
痛かったのか、先程のは比にならないほどの大声で叫んでいる。耳元だぞ、うるさい。
ミルクチョコレートみたいに甘くて。でもくどくなくて。いつまでも飲んでいられる。
「待って……もう止めろ、し……にたくない……ボクはまだ、ヒーローに……」
Aの身体から力が抜けていく。一度吸うのを止め、Aの顔を見る。
「そんな心配はいらないぞ?だってAは」
「死にかけの僕を救った、ヒーローだからな」
返事は、なかった。だから僕には、Aがどう思ったかは分からない。
僕はその後すぐに一滴も残らず、吸い尽くした。
せっかくなので身体は綺麗に洗って食べた。
新鮮で、肌は柔らかく、脂は少ない。おいしかった。空腹で食べる食事は格別。気づいたら骨だけになっていた。
「まだ、すこしたりない」
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作者名：メルキュール | 作成日時：2020年5月18日 18時
