瞬きすら Ⅳ (ページ30)

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「ここに泊まりに来た日のこと覚えてる？」
「覚えてるよ。超しんどかった」
「え、何で？」
「いや、おんなじベッドで好きな女が寝てんのに、手を出せない辛さよ」
「‥‥‥もう一回言って、」
「は？どれ？」
「" 好きな女 "」
「あはっ、やだよ、もう言わない」
「お願い！」
「やです〜。はい、この話もうおしまい！」

キスをされて強制的に終わらせられる会話。

ずるいなぁ、本当。

「なあ、」
「ん？」
「覚悟、出来てる？」

私たちにはいろんな覚悟が必要だった。

新しい一歩を踏み出す覚悟。

ふたりの関係に兄妹以外の名前をつける覚悟。

かけがえのないものを壊す覚悟。

そして、大切な人を傷つける覚悟。

だけど。

「うん。出来てる。辰哉くんは？」
「俺も出来てるよ」

それでも私は私を幸せにしてあげたいし、辰哉くんのことも幸せにしたい。

手のひらと手のひらを重ね、ぎゅっと繋ぐ。

それを合図にまた辰哉くんの顔が近づいて来た。
キスをしてばかりだけど、まだまだ全然足りない。

伏せられていく長いまつ毛も、キスのために少しだけ開いた唇も。

その全てを見逃したくなくて、ギリギリのところで目を閉じる。

「好きだよ、A」

瞬きをするその一瞬ですら惜しく、そして愛おしい。

瞬きすらー完ー