瞬きすら Ⅳ (ページ24)

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あと数センチで唇が触れてしまうような距離。

辰哉くんの香水は昔から変わらない。
甘いのに大人っぽくて、辰哉くんにぴったりの香り。

「‥‥俺はどうすればいいのよ」

いつかと同じセリフ。
あの時は寝たふりが出来たけど、今はそうもいかない。

辰哉くんの口から次にどんな言葉が出てくるのかと固唾を飲む。

「嬉しかったよ、妹と弟が出来て。もう可愛くて可愛くて仕方なかったわけ。でもさ、」

空いている左手で辰哉くんは私の頬をゆっくりと撫でる。

その手つきは優しく、それとは裏腹に目つきはあまりにも苦しそうで、だからこそ目が離せない。

「どっかで狂っちゃったのよ。Aに対してさ、可愛いだけじゃ済まなくなった。だからずっと隠してきたし、これからだってそうするつもりだった」

「でもそんな顔されたらさ、俺だってもう無理よ」

「俺だってAにずっと触れたかった」

「なあ、どうする？俺はどうすればいい？今ならまだ何もなかったことに出来る」

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