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日常が帰ってきた。起きて仕事をして帰って来て、それの繰り返し、なんてことのない生活。小田島くんと出会う前の、私が歩んでいた人生。それに戻っただけというのに。
金髪を見るとつい振り返ってしまう。たまに見かける灰色の制服から逃げようとしてしまう。本当は会いたくてたまらないはずなのに。
心に済む小田島くんが、いつまで経っても消えてくれない。綺麗な思い出も少し臆病な思い出も全部包んで、どこか遠くに行ってしまえばいい。そう思えば思う程、葵ちゃん、と呼ぶ、あの優しい声が耳に残った。
「…あ、れ?」
仕事を終えた帰り道、ふとあのハンカチが見当たらなくて鞄を確認する。おばあちゃんがくれた大切なハンカチ、そして小田島くんと引き合わせてくれた思い出のハンカチ。使わないで鞄に閉まっておくだけの、お守りのようなものなのに。
「…あ、もしかして……」
今日先方に挨拶をしに行った帰り、公園で泣いている男の子を見つけて、思わず駆け寄って。声をかければ擦り傷が見えて、ティッシュを取ろうとした時に、慌てて鞄を引っくり返してしまった。その時に落としてしまったのかもしれない。
「ほんと、ついてないなあ…」
大切を無くすことばかりだ。人も物も、何もかも。そう思いながら、薄暗い道を歩く。この日が傾いた道でさえ、危ねえからァ、なんて言って、手を繋いでくれた小田島くんの表情を思い出してしまった。
公園に付くと、誰かが気付いてくれたのだろう、ブランコに置いてあったハンカチ。少し汚れてしまっていたが、無事見つかったことに安心する。
だから、気付かなかった。少しずつ近付いてくる足音なんて。人の気配なんて。
「それ、大事なんですねえ?」
ゾッとするような、猫なで声なんて。
顔を上げると、あの綺麗なくらいに歪んだ笑みが見えた。言葉に詰まって、小さく体が震える。本能が、こわい、と訴えていた。
そして、次の瞬間。
「……っんん……!」
誰かにハンカチで鼻口を鬱がれる。抵抗なんて意味が無くて、力まかせに動きを封じられる体。苦しくて息ができない。だから思わず、大きく息を吸おうとしてしまった。
(だ、め……意識……が…)
目の前が霞む。ハンカチに何かを刷り込ませてあったとその時に気付いたが、すでに遅かった。体に力が入らないことが分かったのか、離された体。
「…っ、リカ、さ……」
そのまま、目の前が真っ暗になった。
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aoi(プロフ) - みさももさん» そうなのですね!!うれしいです*甘ったるい中に、少しどろっとしたものを持っているような、そんな感じで描いていこうと思ってます!更新がんばります* (2019年11月20日 16時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 私の中の小田島くんのイメージにぴったりなんです!あまあまだけどやる時はやる男と言うか、、、だから大好きです!これからも愛読させていただきます! (2019年11月19日 23時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みさももさん» こんばんは、コメントありがとうございます*すっごくうれしいです!私の描く小田島くんは、少し優しすぎると言いますか、女々しいかな、なんて思いながら描いていたので、励みになりました。これからよろしくお願いします! (2019年11月18日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 初めてコメントします!私的に小田島くん小説で一番大好きです!更新ファイトです! (2019年11月18日 21時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - ぱんださん» コメントありがとうございます。鳳仙の絆すばらしいですよね…!更新お待ちいただけるとうれしいです* (2019年11月18日 17時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年11月12日 22時