〇40 ページ40
_
「葵泣かしたら殺すって言ったよな?早く殺されに来いよ」
もういっそうのこと、殺してくれよ。
電話越しに聞いた、あいつの言葉が耳に残る。その日に葵は悲しそうに笑って、別れようと言った。分かってた、リカに追い詰められて苦しいことくらい。周りが傷付けられるのを、黙って見ていられるようなひとじゃないことくらい。
だから、自分が情けなくてたまらなかった。
傷付いていく葵を見て何もできない、そんな自分がどうしようもなくて。リカを憎む訳でもなく自分ばかりを追い詰める葵に、何も解決をしてやれない無力さに。
俺に力がないから葵はいなくなったんだ。
そう思えば思うほど、胸に空いた穴が広がっていく。苛立ちとか憎しみで、どうしようもないくらいに汚れていく。葵という無垢なものに、触れていた両手が染まっていく。
「小田島、お前いい加減にしろ…!」
そう、佐智雄に止められるまで気が付かなかった。葵に手を振った帰り道、夜道で誰かに絡まれて、憂さ晴らしにちょうどいいやなんて思って。どれくらい経ったのだろう、気付けば赤に染まった拳。
「あれあ〜…」
「何してんだよ。くだらねえ揉め事起こすな、お前らしくない」
「…佐智雄、俺さァ……」
「小田島?」
「俺、もうわかんねえよ…」
思わずその場にへたり込んでしまう。目を瞑ると、浮かぶのはあの悲しい顔で。
「……葵と別れた」
「…本当か?」
「ほんと。別れようって」
「…」
「…俺ほんとはさあ、分かってた。葵ちゃんが嘘ついてることォ」
「小田島」
「でも、すっげえ悲しそうな顔すんの。それ見たら俺、」
「……いいのかよ」
「ああ、…もういいんだ」
俺といても泣かせてばかりだった。
そう言うと佐智雄は、そうか、と小さく言うだけだった。それからは何も話さず、ただ隣を歩いていた。ただ、拳は強く握られていて、何かに耐えているようだった。
きっと佐智雄のことだから、リカの件を早く解決できなかった自分への苛立ちを抱えているんだろう。
「…いーんだ、佐智雄」
「…っ良くねえだろ」
「佐智雄、」
「良い奴の顔してねえぞ」
「……俺さあ」
「小田島、」
「葵のこと、全然守ってやれなかったんだなァ」
情けない言葉に、佐智雄の表情が歪んだ。そして、俺もだ、と付け加えられた言葉は冷えた空に消えた。
438人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
aoi(プロフ) - みさももさん» そうなのですね!!うれしいです*甘ったるい中に、少しどろっとしたものを持っているような、そんな感じで描いていこうと思ってます!更新がんばります* (2019年11月20日 16時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 私の中の小田島くんのイメージにぴったりなんです!あまあまだけどやる時はやる男と言うか、、、だから大好きです!これからも愛読させていただきます! (2019年11月19日 23時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みさももさん» こんばんは、コメントありがとうございます*すっごくうれしいです!私の描く小田島くんは、少し優しすぎると言いますか、女々しいかな、なんて思いながら描いていたので、励みになりました。これからよろしくお願いします! (2019年11月18日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 初めてコメントします!私的に小田島くん小説で一番大好きです!更新ファイトです! (2019年11月18日 21時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - ぱんださん» コメントありがとうございます。鳳仙の絆すばらしいですよね…!更新お待ちいただけるとうれしいです* (2019年11月18日 17時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:aoi | 作成日時:2019年11月12日 22時