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" 葵泣かしたら殺しに行くから"
その言葉が頭から離れない。思い出せば苛立ちが募る。どういう意味だと聞き返す前に、あいつは去ってしまって、答えも聞けずにもやもやした。
気に食わない奴だ、どこまでも。ただの幼馴染だろうが。そう思えば思うほど、睨みを効かせた瞳から違う感情が漏れていた気がして、引っかかる何かを取り除けずにいた。
「小田島くん…?大丈夫?」
「…あ、ああ」
「顔、怖いよ?…怒ってる?」
心配そうな表情の葵が俺を覗き込む。それを見てはっとする。この人といるときは、鳳仙の小田島ではいたくない。苛立ちや不満は、閉じ込めておきたい。
でも、本当は。全て聞いてしまいたかった。あいつとはどんな関係だったんだって。ただの幼馴染だけなのかって。どろっとした何かが、視界を黒く染めそうで、葵に気付かれないよう嘲笑う。
"執着"しすぎるな、と。佐智雄に咎められたばかりだろう。それがどんなに恐ろしいか、一番俺が分かっているから。
「夕ごはん、美味しくなかった?」
「いんやあ?うまかったー」
「…怖い顔、直らないから」
「…葵」
「なあに?」
「…よいっしょおっと」
「わっ…!」
膝の上に座るように抱えると、その軽さに驚いてしまった。程々、太陽を知らないような肌なのだから、華奢だとは思っていたけれど。
俺より高い位置にある葵が、目線を下げて俺を見る。少し困ったように眉が下がっていて、かわいいと思ってしまう。この人、本当に年上なのだろうか。絶対に俺が守らなくては、そう思わせる雰囲気は、生まれ持ったものなのだろう。
「お、だじま、くん?」
「なあに〜?」
「な、何って…。突然だからびっくりした」
「…うん」
「…」
不意に。その細い指が、金髪を解く。その動作の先にいる葵を見上げると、綺麗に彼女は笑った。それがなんだか、尊くて。そんな気持ちも知らず、今度はサングラスに手をかけて、それは落とされる。
何もかもが愛しい。ああ、やっぱり。本来は、俺が触れてはいけないひとなんだ。
固まって変な小田島くん、と眉を下げながら微笑む表情。短い黒髪が、綺麗に揺れた。
「なあ、」
「なあに?」
「…すきだよ、葵」
「…うん、私もすきだよ」
「何があっても離さねえから」
その細い腕を引いて抱きしめる。分かってる、俺が隣にいては不釣り合いなことくらい。でも、俺は。この人の隣にいたい。
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aoi(プロフ) - みさももさん» そうなのですね!!うれしいです*甘ったるい中に、少しどろっとしたものを持っているような、そんな感じで描いていこうと思ってます!更新がんばります* (2019年11月20日 16時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 私の中の小田島くんのイメージにぴったりなんです!あまあまだけどやる時はやる男と言うか、、、だから大好きです!これからも愛読させていただきます! (2019年11月19日 23時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みさももさん» こんばんは、コメントありがとうございます*すっごくうれしいです!私の描く小田島くんは、少し優しすぎると言いますか、女々しいかな、なんて思いながら描いていたので、励みになりました。これからよろしくお願いします! (2019年11月18日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
みさもも(プロフ) - 初めてコメントします!私的に小田島くん小説で一番大好きです!更新ファイトです! (2019年11月18日 21時) (レス) id: 9abd401940 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - ぱんださん» コメントありがとうございます。鳳仙の絆すばらしいですよね…!更新お待ちいただけるとうれしいです* (2019年11月18日 17時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年11月12日 22時