赤い瞳 後編 ページ45
猪の野郎に吹き飛ばされ、
世界が暗転したと思ったら…
(あれ…ここは…)
ふと自分の片手に感じた温かみ、
視線を下げるとそこには彼が居た。
「姉ちゃん…」
とぼとぼと二人ぼっちで
暗い中
街灯に照らされた道を歩いている私と弟。
まだまだ小さな弟の姿から見て
きっとこれは…
(あぁ…夢か…)
既視感があるこの状況を理解した私は内心
ため息をついた。
(夢にまで出てくるとか…どんだけなんだよ…)
自分は弟に対して
あまりにも未練たらたら過ぎではないだろうか？
そんな事を思っているとは梅雨知らず
彼は私を見上げて聞いてきた。
「あのさ…
俺達ってさ、
いらない人間かな？」
「…。
そんな訳ないよ。」
「でも…。」
そこまで言うと彼は目を
伏せて黙ってしまった。
自分の弟が何を思っているのか…
そして私伝えたいのか、
それが察せないほど
姉の私は鈍感じゃない。
「あのね、少なくとも…
私は必要だと思ってる。
それだけじゃあ駄目？」
まだまだ私よりも小さな背丈の彼は
覗き込む私に小さく首を横に振った。
「ううん。」
「そう、じゃあ…良かった。」
「じゃあさ…
姉ちゃんは父さんとか母さんみたいに
俺の前から急に居なくなったり
なんかしないでよ。」
「…うん、わかった。」
(そういえば…そんな約束したっけ…)
弟と姉の二人だけの
小さな約束。
でも今、私の状況になって…
弟と本当に離れたことでわかった。
人生なんて確証があるものじゃないのに…
たとえそうだとわかっていても
少しでも私達はお互いをただただ
繋ぎ止めておきたかったんだろう。
重たい鎖のようにお互いを
繋ぐものだったとしても、だ。
本当の一人ぼっちになる方が怖かったから…
「約束だからな、姉ちゃん。」
「うん、約束する。」
嘘つきな私の口はそう言って
話をおわらせた。
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作者名：おぼろん | 作成日時：2021年5月4日 16時
