彼なりの優しさ 後編 ページ38
「私も…行く。」
フラフラと木にもたれかかるようにして
立ち上がる私に対して
オロオロと困惑を見せる柱間くん。
「でっ、でも無理ぞ！！
さっきだって、きっと骨が…」
彼は焦るように私にそう言う。
「ねぇ、柱間くん。
私、君と違ってきっと
すごく弱いけどさ…
人の強さって…
それだけじゃないんだよ。
君のお姉さんの力を
見せてやろうじゃないか！」
と見栄を張って言ったものの…
今この短時間で作れる罠なんてものを
考えつける程の脳が私にはない。
さて、どうしたものか…
「…、」
私は目の前の彼には
姉の威厳を保つ為に気付かれぬように
猪を遠目にみながら考えていると、
「ん？」
ふと猪の体の中に通う
まるで脈拍のようなものが見えたのだ。
自分の視界が一瞬、
写真フィルターがかかったかのように、
見え方が変わったと
言えばいいのだろうか…
「は、しらまくん？
今なんか、見えなかった？
こう…なんというか…血管みたいなのが、
あれの体に？」
「？、
なにも…ないぞ？」
不思議そうに私と猪を交互にみる彼、
どうやら私だけがこの不思議現象を
体験したようだ。
(な…んだったんだ。)
自分の両目を何度か擦りながら
もう一度目を凝らして
猪の方を確認するが…
もうなんともないようだった。
「ごめん…勘違い？だったみたい。
気にしないで。」
「大丈夫ぞ？」
「うん、大丈夫。」
そう言いながら私は両手に弓矢を構える。
「A、俺が行く。
流石にその弓矢じゃあ…あれは倒せな、」
「もしものために何本か
矢尻を強化して来た。」
しかし彼の言う通り、
これだけじゃあ不安だ、
だから…
「こいつも持って来た。」
私が取り出したのは、
獣の皮製の袋、一つ。
実はこの為に
持ってきたわけではないのだが…
「なんぞ？」
「みてみればわかるよ。」
そう言って手渡した途端、
彼はその顔を歪め、鼻を摘んだ。
「うげっ、く…臭いんぞ…」
「そりゃあ臭いよ。
残飯の詰め合わせだもん…
特に玉ねぎ多め…
というか早く閉めて…」
私は彼の手からそれを奪い返して
きつく閉じる。
耐えれたもんじゃない…
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作者名：おぼろん | 作成日時：2021年5月4日 16時
